金融経済イニシアティブ

山本謙三のコラム・オピニオン

山本謙三による金融・経済コラムです。

なぜ日銀はここへきて「賃金」を持ち出すのか ~繰り返される異次元緩和の「新たな説明」

2022.10.03

「物価対策」といえば、通常は物価上昇を抑制する政策を思い浮かべるだろう。しかし、今回の政府・日本銀行による「物価対策」は逆だ。超金融緩和の継続と巨額の財政支出の組み合わせは、需要を維持し、物価の上昇を促す政策にほかならない。

 

給付金や補助金の対象とならない家計や企業にとっては、物価の上昇と将来の増税のダブルパンチとなる。一つの政策判断ではあるが、なぜこうした判断に至ったかの説明は明確でない。

 

日銀は、値上げ許容度発言を撤回し、最近では政府とともに円買い介入も実施している。それでも、異次元緩和は続けている。ロジックを読み解くのは難しい。

地域と付加価値(1/3):全国2位を誇る「東京都境界未定地域」とは ~地方圏をリードする製造業、民間研究機関の所在地域

2022.09.01

前回、地方創生の実現には、地元産業が大都市圏並みの所得を稼ぎ出すことが必須と述べた(2022年8月「早くも東京に戻り始めた人口」参照)。一つの成功例を一般化して地方全体に当てはめるのでなく、各地域のどの特性にどのような競争力があるかを見極めることが重要だ。

 

以下、総務省「経済センサス―活動調査」の地域、産業別データを用いて、各地の付加価値生産の現状を確認してみよう。

 

付加価値とは、企業や事業所の売り上げから原材料費や減価償却を差し引いたものをいい、その中から従業員に給与が支払われ、残りが利益となる。いわゆる「労働生産性」とは、付加価値額を事業従事者数で割った値(「従事者一人当たりの付加価値額」)である。

早くも東京に戻り始めた人口 ~「テレワーク移住等で東京一極集中に是正の兆し」説は何だったのか

2022.08.01

本年1月末、2021年中の「人口移動報告」が公表され、東京23区が25年ぶりに人口流出超に転じた。コロナ禍をきっかけとするテレワークの普及もあり、「テレワーク移住等により、東京一極集中に是正の兆し」との解説記事が目立った。

 

それから半年。事態は一変し、東京23区は早くも流入超のトレンドに回帰している。コロナ情勢の急変で再び行動制限が課されるようなことがなければ、本年は2000年に近い流入超数を取り戻すだろう(参考1)。

 

「テレワーク移住等で、東京一極集中に是正の兆し」との見方は、幻想だった。テレワーク移住といった単発のエピソードを、人口移動全体に当てはめてはならない。

先月、岸田文雄内閣が今年度の「骨太の方針」を決定した。方針策定の過程では、安倍晋三元首相から批判的な意見が寄せられたと報じられている。しかし、当事者の意見の中にも「アベノミクス・異次元緩和」のパフォーマンスに関する錯覚が多い。

 

「デフレ脱却に大きな効果があった」

 

「アベノミクス・異次元緩和」の成果として最も強調されてきたのが、「デフレ脱却に大きな効果があった」だろう。

なぜ地銀の貸出金利は極度の低下が続くのか ~気が付けば 「市場経済からの離反」

2022.06.02

地方銀行の貸出金利が、特異な低下を示している。

 

新規の短期貸し出しと長期貸し出しの加重平均金利である貸出約定平均金利(総合)は、都市銀行と同水準まで低下した。日本銀行のデータ検索サイトで遡及可能な1994年以降、初めてのことだ。このうち長期貸し出しの金利は、昨年秋以来、ほとんどの月で都銀を下回っている。

 

都地銀の経費率や貸出先の信用リスクの差を踏まえれば、両業態の新規の貸出約定平均金利(以下、「貸出金利」)が肩を並べるのは、尋常でない。なぜ、こうした事態が起きているのか。その意味するところは、何か。

消費者物価(生鮮食品を除く総合)が、4月にも前年比2%台に達する可能性が出てきた。世界的な資源価格や穀物価格の高騰が、国内にも波及している。為替市場では、内外金利差の拡大を背景に円安が進む。

 

それでも日本銀行は、異次元緩和継続の姿勢を崩さない。①物価のプラス幅はいずれ縮小すること、②円安は日本経済にとって全体としてプラスであること――を理由とする。

 

為替相場に関する日銀の見解は、「経済や金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましい」というものだ(4月28日黒田東彦総裁記者会見)。

 

これに「円安は全体としてプラス」との主張を重ねれば、日銀は足元の円安進行をおおむね「ファンダメンタルズに沿った動き」と見なしているということだろう。そうでなければ、辻褄が合わない。

 

しかし、円の実質実効為替レートは、1971年末以来の円安水準だ。本当にファンダメンタルズに沿った動きと言えるか。為替相場を規定する「経済のファンダメンタルズ」とは何か。「円安が日本経済にとってプラス」は、本当か。

(注)「実質実効為替レート」とは、相対的な通貨の実力を図るための総合的な指標。相手国・地域の貿易額で加重平均した「名目実効為替レート」に、内外の物価変動率格差を控除して算出した指数。

[本稿は、金融ジャーナル社「月刊金融ジャーナル」2022年4月号 総特集:地域銀行 進化の鍵   Part II「収益多様化への道」への寄稿「「決済・預金・貸出」の先にある新しい銀行像~鍵はプラットフォーム型モデルの「発想」」を、許諾を得て転載するものです。]

 

収益の上がらない銀行業の構図が定着してきた。規制緩和の進む業務範囲に、活路を見いだすしかないだろう。そこでは、プラットフォーム型モデルの「発想」が重要になる。他業と連携して、顧客の課題解決に役立つ機能を基盤上に並べ、柔軟に組み合わせを選べるようにする発想だ。相続支援や事業支援も、基盤上の機能の組み合わせとなる。その先には、非金融業への進出の可能性もある。この場合、銀行の収益向上への道筋はどのように描けるだろうか。

内外物価格差の背後にある社会規範、長期金利を弾力的に ~「物価目標2%はグローバルスタンダード」という錯覚(2/2、完)

2022.04.19

前回のコラムで、次のように述べた(2022年4月「物価はなぜ上がるのか、適切な政策は?~「物価目標2%はグローバルスタンダード」という錯覚(1/2)」)。

 

(1)日米の物価上昇率には「一定の格差をもって連動する強固な関係」がある。1978年以降、日本の物価は一貫して米国を下回っている。上昇率が2%を下回るようになった1993年から2021年までの年平均格差は、1.8%だった(いずれも消費税導入・同税率引き上げの年を除く、参考参照)。

 

(2)この関係は今も変わらない。日本の物価が4月以降2%台に達する可能性が出てきたのは、米国が目標の2%から大きく外れて高騰したことと相関している。

 

(3)今回の物価上昇は典型的な輸入インフレであり、望ましくない。日本銀行は長期金利の誘導レンジ「ゼロ±0.25%」を堅持する姿勢にある。しかし、政策の堅持は内外金利差の拡大を通じて円安を促し、「望ましくない物価上昇」を加速させる。異次元緩和で失われた金利機能を回復させるためにも、長期金利の柔軟な変動が必要である。

 

物価はなぜ上がるのか、適切な政策は? ~「物価目標2%はグローバルスタンダード」という錯覚(1/2)

2022.04.01

4月以降、物価が前年比2%に達する可能性が出てきた。直接の原因は、①携帯電話料金引き下げの影響一巡、②昨年来の原油価格の上昇、③コロナ下のサプライチェーンの分断に、④ロシアのウクライナ侵攻に伴う資源価格や穀物価格の急騰が加わったことだ。

 

同時に見逃せないのは、米欧の物価上昇率が目標の前年比2%を超えて高騰していることである。

 

日本と米欧の物価上昇率には、「一定の格差をもって連動する関係」がある。原因・結果でなく単純な相関だが、今回も例外でない。この強固な関係が示唆するものは、何か。

日本銀行の黒田東彦総裁が1月の会見で、異次元緩和に対する自己評価を述べている。「実際にあり得た他の金融政策に比べ、経済の回復を助け、デフレからの脱却を助け、企業収益を改善し、雇用も大幅に伸びた」との高い評価だ。

 

この主張には、どれほどの根拠があるだろうか。

 

揺らぐ物価目標の位置付け

 

はじめに問われるべきは、物価目標との関係だ。異次元緩和の開始から約9年が過ぎた。この間、物価目標2%は一度も達成されていない(参考1参照)。評価するには、まずもって物価目標の位置づけが明確でなければならない。

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