金融経済イニシアティブ

山本謙三のコラム・オピニオン

山本謙三による金融・経済コラムです。

日本はなぜリバーサル・レートに達しないのか ~貸出増加は「安心材料」ではない

2019.12.01

金融緩和の効果に関し、「リバーサル・レート」の議論が注目されている。

 

金利の大幅低下を背景に銀行収益が悪化すると、資本制約から金融仲介機能が阻害され、緩和効果がかえって反転(リバース)しかねないとの議論だ。

 

日本でも預貸金利ざやが縮小し、銀行収益が悪化を続けている。にもかかわらず、貸出残高は前年比プラスを維持している(参考1参照)。

 

日本銀行黒田総裁も、金融仲介機能に障害は出ておらず、「現時点で「リバーサル・レート」の議論が適用されるとは全く考えていない」としている(2019年7月定例記者会見)。

 

では、なぜ銀行貸出は増え続けるのか。リバーサル・レートに達しないことは安心材料なのだろうか。

政府の全世代型社会保障検討会議がスタートした。高齢者の就労を後押しすることが柱の一つという。

 

長寿化、少子化の進む日本にとって、長く働く社会づくりは不可欠だ。65歳時点の平均余命は男性19年、女性24年と、1961年に国民年金が導入されて以来それぞれ約8年、約10年も延びた。この年数程度はより長く働くこととしても、違和感はないだろう。

 

政府は施策の一つとして、年金受給開始年齢の選択制を、現行の「60~70歳」から「60~75歳」に拡大する案を検討している。しかし、この案に沿い実際に年金受給を高齢へ繰り下げる人は少ないだろう。なぜか。

口座維持手数料の導入論議で語られぬこと ~マイナスの預金金利と日銀の説明責任

2019.10.01

銀行による口座維持手数料の導入可能性が取り沙汰されている。次の追加緩和でマイナス金利が深掘りされる場合、「銀行はいよいよ口座維持手数料の導入に踏み切るのではないか」との観測からである。

 

今回の手数料論議は、収益多様化のための個別戦略とは性格が異なる。あくまで「マイナスの預金金利の代替」としての手数料である。それほど銀行は収益面で追い込まれている。

 

日本銀行は「口座維持手数料はそれぞれの金融機関が経営判断」とするばかりだが、本当にそういうことだろうか。

女性の東京圏への転入超数は46年ぶりの高水準 ~なぜ女性は東京圏に向かうか

2019.09.01

5年前、政府は、地方創生の基本目標として「2020年までに東京圏の人口転入超ゼロ」を掲げた。「東京一極集中」の是正である。しかし、その後の実績は、ゼロに向かうどころか、転入超の大幅拡大である。

 

ここへきて目立つのは、女性の転入超の増加だ。女性の転入超数(日本人移動者)は拡大基調を辿り、昨年(2018年)には7.8万人と、46年ぶりの高水準を記録した。

 

最近は、若年女性層の人口流出を危惧する声が、地方で多く聞かれるようになった。その背景は何だろうか。

以前にも当コラムで指摘したが、政府が「成長戦略KPI」で掲げる開業率データは、実態を反映していない(末尾の「関連コラム」参照)。中小企業白書にならった扱いだが、そもそもの出所元である厚生労働省の統計自体が、開業、廃業を示すデータとして扱っていない。

 

なぜ、こうなるのか。

 

成長戦略KPIは多くのメディアが準拠する指標だけに、いまいちど何が起こっているかを確認しておきたい。

なぜ「構造要因で、6割の地銀が最終赤字に」は曲解なのか ~日銀試算が示唆する異次元緩和の深刻な帰結

2019.07.01

日本銀行が「金融システムレポート」2019年4月号で、銀行の中長期収益シミュレーションを行っている。結果は、「借入需要減少ケース」で、約6割の国内基準行(主に地域銀行)が10年後に最終赤字に陥るというものだった。

 

これを受け、多くのメディアが「構造要因で、地銀の6割が最終赤字に」と報じた。だが、これを構造要因とするのは曲解である。

 

地銀が深刻な状態にあることは間違いない。手をこまぬいているわけにはいかない。しかし、今回の日銀の試算結果が示すのは、むしろ異次元緩和の帰結である。多少技術的になるが、理由を考えてみたい。

 

山本謙三の金融経済イニシアティブ:誰が東京五輪を2度楽しむか ~戦後、長寿化はどれほど進んだか

2019.06.01

2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催まで、あと1年余りとなった。五輪誘致の際は、「前回の感動を、若者たちにも」が合言葉の一つだったと聞く。1964年の東京五輪は、それほど国民に誇りと感動をもたらした。

 

しかし、今回の東京オリ・パラをより多く楽しむのは、実は、時間に余裕のある高齢者ではないかとの見方がある。すなわち、2度目の東京五輪を迎える人々だ。一体、どれほどの人が2度目を楽しむことになるのだろうか。

異次元緩和の負のトライアングル:山本謙三の金融経済イニシアティブ ~縮む市場経済、軋む金融システム、緩む財政規律

2019.04.26

地域金融機関が苦境にあえいでいる。日本銀行が半年に1度公表する「金融システムレポート」でも、回をおうごとに経営基盤が弱体化していることが分かる。

 

収益悪化の理由は、①異次元緩和の長期化と②地域の資金需要の減少だ。日銀は後者の構造要因を強調するが、本当にそうか。メガバンクも、国内商業銀行業務の収益悪化は著しい。

 

そもそも、異次元緩和の生み出す金融環境があまりに極端なため、借入需要減少の影響を取り出して、各金融機関の真の実力を測ることすら難しい。現下の金融環境はどれほど「特異」だろうか。

キャッシュレス、誰がコストを負担するか:山本謙三の金融経済イニシアティブ ~No free lunch、タダで利用できる幸運はない

2019.04.01

 

前回のコラムで、日本は、電子マネーが銀行発行のデビットカードを凌駕する唯一の国であることを書いた(2019.03.01「なぜ銀行はキャッシュレスに出遅れたか」参照)。

 

たしかに、電子マネーに代表される非銀行系のキャッシュレスは、利用者(消費者)にとって「お得感」が強い。ポイントもクーポンもつく。だが、キャッシュレスをめぐる費用・便益の構造は複雑だ。インプリシットな(暗黙の)負担もある。利用者は、本当にコスト負担なしに便益を享受しているのだろうか。

なぜ銀行はキャッシュレスに出遅れたか:山本謙三の金融経済イニシアティブ ~電子マネーがデビットカードを凌駕する唯一の国

2019.03.01

 

日本はもともと、資金決済のオンライン化がいち早く進んだ国だった。1973年に全国銀行の内国為替システムが稼働を開始し、手形・小切手決済の多くがオンライン決済に移行した。家計の決済も、公共料金の自動引き落としや給与の振込みが広く利用されてきた。

 

だが、日々の買い物には現金決済が多く残った。現金の取り扱いは、店舗だけでなく銀行にも多額のハンドリング・コストがかかる。にもかかわらず、銀行によるキャッシュレスはなかなか進まなかった。最近のキャッシュレスも非銀行系企業が主導する。なぜこうなったのだろうか。

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