金融経済イニシアティブ

山本謙三のコラム・オピニオン

山本謙三による金融・経済コラムです。

消費者物価(生鮮食品を除く総合)が、4月にも前年比2%台に達する可能性が出てきた。世界的な資源価格や穀物価格の高騰が、国内にも波及している。為替市場では、内外金利差の拡大を背景に円安が進む。

 

それでも日本銀行は、異次元緩和継続の姿勢を崩さない。①物価のプラス幅はいずれ縮小すること、②円安は日本経済にとって全体としてプラスであること――を理由とする。

 

為替相場に関する日銀の見解は、「経済や金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましい」というものだ(4月28日黒田東彦総裁記者会見)。

 

これに「円安は全体としてプラス」との主張を重ねれば、日銀は足元の円安進行をおおむね「ファンダメンタルズに沿った動き」と見なしているということだろう。そうでなければ、辻褄が合わない。

 

しかし、円の実質実効為替レートは、1971年末以来の円安水準だ。本当にファンダメンタルズに沿った動きと言えるか。為替相場を規定する「経済のファンダメンタルズ」とは何か。「円安が日本経済にとってプラス」は、本当か。

(注)「実質実効為替レート」とは、相対的な通貨の実力を図るための総合的な指標。相手国・地域の貿易額で加重平均した「名目実効為替レート」に、内外の物価変動率格差を控除して算出した指数。

[本稿は、金融ジャーナル社「月刊金融ジャーナル」2022年4月号 総特集:地域銀行 進化の鍵   Part II「収益多様化への道」への寄稿「「決済・預金・貸出」の先にある新しい銀行像~鍵はプラットフォーム型モデルの「発想」」を、許諾を得て転載するものです。]

 

収益の上がらない銀行業の構図が定着してきた。規制緩和の進む業務範囲に、活路を見いだすしかないだろう。そこでは、プラットフォーム型モデルの「発想」が重要になる。他業と連携して、顧客の課題解決に役立つ機能を基盤上に並べ、柔軟に組み合わせを選べるようにする発想だ。相続支援や事業支援も、基盤上の機能の組み合わせとなる。その先には、非金融業への進出の可能性もある。この場合、銀行の収益向上への道筋はどのように描けるだろうか。

内外物価格差の背後にある社会規範、長期金利を弾力的に ~「物価目標2%はグローバルスタンダード」という錯覚(2/2、完)

2022.04.19

前回のコラムで、次のように述べた(2022年4月「物価はなぜ上がるのか、適切な政策は?~「物価目標2%はグローバルスタンダード」という錯覚(1/2)」)。

 

(1)日米の物価上昇率には「一定の格差をもって連動する強固な関係」がある。1978年以降、日本の物価は一貫して米国を下回っている。上昇率が2%を下回るようになった1993年から2021年までの年平均格差は、1.8%だった(いずれも消費税導入・同税率引き上げの年を除く、参考参照)。

 

(2)この関係は今も変わらない。日本の物価が4月以降2%台に達する可能性が出てきたのは、米国が目標の2%から大きく外れて高騰したことと相関している。

 

(3)今回の物価上昇は典型的な輸入インフレであり、望ましくない。日本銀行は長期金利の誘導レンジ「ゼロ±0.25%」を堅持する姿勢にある。しかし、政策の堅持は内外金利差の拡大を通じて円安を促し、「望ましくない物価上昇」を加速させる。異次元緩和で失われた金利機能を回復させるためにも、長期金利の柔軟な変動が必要である。

 

物価はなぜ上がるのか、適切な政策は? ~「物価目標2%はグローバルスタンダード」という錯覚(1/2)

2022.04.01

4月以降、物価が前年比2%に達する可能性が出てきた。直接の原因は、①携帯電話料金引き下げの影響一巡、②昨年来の原油価格の上昇、③コロナ下のサプライチェーンの分断に、④ロシアのウクライナ侵攻に伴う資源価格や穀物価格の急騰が加わったことだ。

 

同時に見逃せないのは、米欧の物価上昇率が目標の前年比2%を超えて高騰していることである。

 

日本と米欧の物価上昇率には、「一定の格差をもって連動する関係」がある。原因・結果でなく単純な相関だが、今回も例外でない。この強固な関係が示唆するものは、何か。

日本銀行の黒田東彦総裁が1月の会見で、異次元緩和に対する自己評価を述べている。「実際にあり得た他の金融政策に比べ、経済の回復を助け、デフレからの脱却を助け、企業収益を改善し、雇用も大幅に伸びた」との高い評価だ。

 

この主張には、どれほどの根拠があるだろうか。

 

揺らぐ物価目標の位置付け

 

はじめに問われるべきは、物価目標との関係だ。異次元緩和の開始から約9年が過ぎた。この間、物価目標2%は一度も達成されていない(参考1参照)。評価するには、まずもって物価目標の位置づけが明確でなければならない。

本当は東京圏集中をより鮮明にした「人口移動報告」 ~近隣県への人口の流れはパート、アルバイト不況の反映?

2022.02.01

先月末、2021年中の人口移動報告が公表された。「東京離れ コロナ加速」(日本経済新聞)、「東京23区、初の転出超過 14年以降」(朝日新聞)など、各紙こぞって、人口移動の基本的な流れに変化があったかのような見出しを掲げた。

 

しかし、景気停滞期に東京圏への流入超が縮小するのは、いつものことだ。むしろコロナショックほどの大規模な景気停滞にもかかわらず、8万人もの人口流入超が続いたことの方が驚きである。

国債残高82兆円を「国家財政、破産の危機」と呼んだ時代があった ~財政規律はなぜ軽んじられるようになったか

2022.01.04

昨年末、NHK衛星放送が、1982年に放映した特集番組「85歳の執念~行革の顔・土光敏夫」を再放送していた。第二次臨時行政調査会、いわゆる「土光臨調」の会長土光敏夫氏を追ったドキュメンタリーである。

 

番組は「国の借金、国債発行残高82兆円。国家財政はいま、破産の危機に瀕している」とのナレーションで始まる。

 

その後40年を経て、今年度末の国債発行残高は1000兆円に達する見込みにある。実に二桁違う。財政規律はいまや風前の灯にある。

なぜ個人消費は低迷するのか ~貯蓄を増やし続ける高齢者

2021.12.01

経済学の学説に「ライフサイクル仮説」がある。一生涯を通じてみると、現役の間は所得の一部を貯蓄に回し、引退後は貯蓄を取り崩して消費に充てる、というものである。貯蓄は将来の消費のため、というわけだ。

 

きわめて自然な考え方にみえるが、実際には、日本の高齢層は引退後も貯蓄を増やし続けている。あくまで「世帯平均」の話だが、どうしてこうなるのだろうか。

これからの25年は「人手不足の時代」だ。前回まで、労働力の増加を期待できるカテゴリーとして、女性と高齢者の動向をみてきた。残るカテゴリーは、外国人だ。

 

日本の労働市場は、すでに外国人に多くを依存している。今後も一層依存は高まるだろう。しかし、これまでの国の対応は後追い的だったようにみえる。

 

今後期待どおりに外国からの労働力が増える場合、快く働き、生活してもらえるだけの柔軟性が日本の社会にあるだろうか。

人口動態と労働市場(4/5)「人口オーナス時代」の成長率を試算する ~年率+0.8%超の生産性向上が必要に

2021.10.01

前回、労働力の「自然減」は今後25年間で全体の約2割に達し、「社会増」で打ち返すのが難しくなると述べた。理由は、①生産年齢人口(15~64歳)の減少加速と、②高齢人口のスローダウンである。少子化の影響は、ついに高齢人口にも及んでくる。

 

ただし、総人口の減少とともに総需要も縮小するので、「自然減」をすべて埋めなければならないわけではない。問題は、労働力の減少スピードが総人口の減少を凌駕し、労働供給力の縮小が需要を上回る速さで進むことだ。この結果、人手不足が深刻になる。

 

では、どれほどの「社会増」と「生産性向上」があれば、私たちは子や孫の世代に豊かな社会を引き継ぐことができるだろうか。簡単に試算してみよう。

 

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