増える人財の国外流出、続く外国からの人口流入 ~円安下の人口移動
2025.02.03グローバルな日本企業の間で、最近、日本人管理職の給与の割り負けが話題だ。対欧米のみならず、最近はアジアの一部諸国に対しても、派遣職員の給与が現地比割り負け始めたという。
派遣者には、日本の給与体系が適用される例が多い。足元の為替レートを適用して送金すると、現地の管理職者の給与水準に負けてしまう。企業は様々な工夫で均衡を図ろうとするが、退職者も増えている様子だ。
比較的若い年齢層の場合は、会社を退職し、その後に派遣先だった海外現地法人に入り直す例もあるという。現地採用の方が、給与が高くなるというわけだ。
国外への流出は、将来を嘱望される人財であるほど目立つ。海外の大学への留学生も同様で、卒業後国内に戻らず、現地で就職先を探す若者が増えている。
大幅な円安が日本経済の足腰を弱める
背景には、大幅な円安の持続がある。通貨の相対的な実力を表す「実質実効為替レート」(注)は、1971年8月のニクソンショック時、すなわち当時の1ドル=360円をさらに下回る水準まで落ち込んでいる(参考1)。
(注)私たちが通常目にする名目為替レートを、相手国の貿易ウェイトで加重平均(「名目実効為替レート」)し、さらに各国間の物価変動率格差を調整して算出した指数。
(参考1)実質実効為替レートの推移
(注)2020年=100。
(出所)日本銀行「実効為替レート」をもとに筆者作成。
こうなると、国内からは、海外のモノやサービスがすべて高くみえる。海外出張や海外旅行が躊躇される理由だ。
一方、海外からは、日本のモノやサービスがすべて安く見える。その結果、インバウンドの観光客が急増し、海外からの土地購入が増える。一見、好ましい動きにみえるが、国内の労働力や自然資源を安売りしていることにほかならない。
異次元緩和後の円安は、短期的には、観光など国内需要の増加をもたらす。しかし、長期的には、人財の海外流出を促し、日本経済の足腰を弱めている。
外国人の国内流入は高水準継続
一方、一般従業員の給与水準は、多くのアジア諸国に比べ、まだ日本の方が優位にある。端的に示すのが、国外からの流入継続である。
1月末に公表された2024年の外国人の流入超数は約35万人に達し、日本人の国外流出超と合わせても、ネットで約33万人の流入超(社会増)となった(参考2参照)。
(参考2)全国および3大都市圏の社会増減数(国外との流出入を含む)
(注1)社会増減=国内からの転入超数+国外からの転入超数+移動前の住所地不詳―職権消除等。
(注2)東京圏は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県。大阪圏は大阪府、京都府、兵庫県、奈良県。名古屋圏は愛知県、岐阜県、三重県。
(出所)総務省「住民基本台帳 人口移動報告」をもとに筆者作成。
国内の年間出生数が70万人強(24年1〜11月実績66万人)に落ち込むとみられる中で、その半数近くに相当する人口が海外から流入している。その意味合いは大きい。
人口減少が進む日本にとっては、もはや国外からの人口流入がなければ経済は成り立たない。今後は、このトレンドをどこまで維持できるかが課題となる。
なお、これまで当コラムでは、社会増減を「国内の転入超数」+「国外からの転入超数」と定義してきたが、このほど総務省から、参考2(注1)のとおり、さらに「移動前の住所地不詳」と「職権消除等」を加減算した定義が示された。当コラムも、これに従うこととする。
ちなみに、「移動前の住所地不詳」とは、住民登録した在留外国人の中で、移動前の住所地が不詳の者などを意味し、大阪圏に多い。「職権消除等」とは、転出届けを怠ったまま帰国するなどして、自治体が記録の正確性を期すため職権で住民票を消除した者を意味し、東京圏に多い。
外国人も大都市集中へ
しかし、外国人の移動にも変化の兆しが窺われ始めている。
国外からの流入超は増加を続け、統計が入手可能な2020年以降、最高の数字となった。47全都道府県すべてが、国外からの流入超(国外からの転入者数-国外への転出者数)を記録している。
しかし、前年まで多くの県でみられた「国外からの流入超が国内への流出超を埋めて余りある」ほどの勢いは鈍りつつある。
国内、国外トータルで流入超(社会増)となった都道府県は、2022年、23年がともに23県だったのに対し、24年は20県に減少している(参考3)。
(参考3)都道府県別の社会増減状況(国外との流出入を含む)
(注)社会増減=国内の転入超数+国外からの転入超数+移動前の住所地不詳―職権消除等。
(出所)総務省「住民基本台帳 人口移動報告」をもとに筆者作成。
2024年の国外からの流入超数は、上記の統計および在留外国人統計からみて、1960年代以降、過去最高となったとみられる。にもかかわらず、国内との流出入を含めれば、流入超(社会増)の都道府県の数は減っている。これは、日本人のみならず、外国人も大都市圏で働き口を求めるようになった結果だろう。
円安は、海外から移住してきた外国人にとって強い逆風となる。働いて得た収入を仕送りしようとしても、母国通貨の換算額は減少してしまう。このため、より高い収入を求めて、大都市圏で働き口を探す外国人が増えたと解釈される。
円安の是正は喫緊の課題
グローバルに通用する内外の人財は、働く場としての日本を敬遠し始めている。一般従業員のレベルでは、日本と母国(アジア)の間になお賃金格差があるが、その差も急速に縮小している。その結果、外国人も大都市圏への志向を強めている。
在留資格の制度変更をきっかけに、これまで「外国からの流入超」の拡大が続いてきたが、現在のような円安水準が続けば、いずれ流入の鈍化は避けられないだろう。
行き過ぎた円安は、日本経済の足腰を弱める。日本銀行が過度な金融緩和状態を続けるもとで、生まれてきた円安である。金融正常化に向けた確固たるコミットメントが必要だ。
以 上