金融経済イニシアティブ

山本謙三のコラム・オピニオン

山本謙三による金融・経済コラムです。

金融サービスがデジタル技術の浸透で変わるのは、自明にみえる。

 

しかし、フィンテックの実例をみれば、劇的に変化したのは、サービスの周辺部にかかるプロセスが圧倒的だ。サービスのコア部分、すなわち預金、貸出などの根本にアクセスしているものは少ない。その意味で金融業、とりわけ銀行業は「枯れた産業」ともみえる。

 

それでも、デジタルのインパクトは計りしれない。金融機能を分解し、機能を組み直したり、付け加えることで、より高い付加価値を生み出すことができる。既存の規制や慣行をいったん横に置けば、新たなサービスの開発余地は存外大きい。

 

(連載第3回。第1~2回は末尾関連コラムを参照。)

デジタルが顧客接点を変えるのは、一目瞭然だ。英語表現でいえば、”brick-and-mortar to online”ーー「レンガとモルタルづくりの実店舗からオンライン店舗へ」ーーである。

 

銀行の顧客接点は、実際には、店舗窓口から、ATM、インターネットバンキングを経て、モバイルバンキングに移行しつつある。その意味で、顧客接点の変化は従来の延長線上にあるといえるが、考慮すべき論点は多い。

 

(連載第2回。第1回は末尾の関連コラムを参照)

デジタル技術の進化は、すべての企業に経営変革を迫る。金融業も例外ではない。いまや、すべての金融機関がデジタル技術の取り込みに躍起になっている。

 

しかし、デジタルがもたらすインパクトは、複雑かつ多岐にわたる。モバイルの利用にとどまらず、顧客の行動自体が変わる可能性すらある。変化の方向を読み誤れば、せっかくの投資も無駄に終わりかねない。

 

ヒントは、すでに蓄積のある製造業などの他分野にもあるだろう。以下では、他分野の経験も踏まえつつ、金融機関が考慮すべき要素を考えてみたい。

日銀のETF買入れ 「リスク・プレミアムに働きかけること」のリスク ~株価維持と見られることの危うさ

2020.04.01

 

新型コロナウィルスの感染拡大で、世界の株価が急落した。金融市場は日本銀行によるETF買入れの増額を期待し、日銀も買入れ額の倍増を決めた。

 

不安心理の高まりから金融市場が不安定化するとき、中央銀行は資金供給に加え、民間金融商品の直接買入れに踏み切ることがある。過度に拡大したリスク・プレミアムの修正を図ろうとするものだ。

 

しかし、ほとんどの中央銀行は緊急時の措置と位置付け、対象をCP、社債に限る。株式を買い入れているのは、日銀がほぼ唯一の例外だ。

 

中央銀行は、株価維持機関と見られることを強く警戒する。現在の日銀も「ETF買入れは、株価の引き上げを狙った政策でない」と強調する。それでも市場は、株価下落時の日銀買入れをますます期待するようになった。なぜ、そうなのか。

口座維持手数料の二面性 ~なぜ導入は容易でないのか

2020.03.01

一部の銀行が、口座維持手数料の導入を始めた。ただし、これまでのところは、不稼働口座への適用がほとんどだ。本格的な手数料の導入には、程遠い。銀行収益への寄与は限られるだろう。

 

預金口座を安全に管理するには、多額の費用がかかる。本業収益の悪化が著しい銀行にとって、口座維持手数料の導入は優先課題だ。しかし、導入のハードルは高い。

 

本稿では、昨年10月に本コラムで記した口座維持手数料の導入論議を改めて整理し、銀行の置かれた状況を確認したい(末尾関連コラムを参照)。

なぜ東京圏、大都市圏への人口流入は止まらないのか ~人手不足と人口移動の高まる相関

2020.01.27

政府は、昨年末、地方創生第2期(2020~24年度)の総合戦略を閣議決定した。

 

第1期(2015~19年度)は基本目標の一つに「2020年までに東京圏への人口転入超ゼロ」を掲げたが、転入超数はむしろ拡大を続け、目標達成は絶望視されている。

 

それでも政府は目標を維持し、達成時期を25年に後倒しする方針だ。しかし、この目標はあまりに根拠に乏しい。実現はきわめて難しいだろう。なぜか。

自治体の「無記名」調査 低い個人情報への感度 ~わずかな質問で回答者の特定が可能に?

2020.01.06

居住する地方自治体から、「高齢者等実態調査」という名のアンケート調査が送られてきた。健康状態や高齢者施策に関する調査だ。細かいものを含め、質問数は130近くにのぼる。高齢者がすべて読み込めるか心配になるが、ひとまず横におこう。

 

対象者は「65歳以上の市民の方1,500名を無作為に選」んだという。65歳以上人口の3.7%に当たる。

 

回答は「無記名」とされ、「個人のプライバシーの侵害などのご迷惑をお掛けすることはありません」と記されている。

 

本稿は、自治体のプライバシー尊重の姿勢を疑うものではない。しかし、質問票の内容は、その気になれば、回答者を容易に特定できるようにみえる。無記名を強調するわりに、個人情報への感度は低い。

日本はなぜリバーサル・レートに達しないのか ~貸出増加は「安心材料」ではない

2019.12.01

金融緩和の効果に関し、「リバーサル・レート」の議論が注目されている。

 

金利の大幅低下を背景に銀行収益が悪化すると、資本制約から金融仲介機能が阻害され、緩和効果がかえって反転(リバース)しかねないとの議論だ。

 

日本でも預貸金利ざやが縮小し、銀行収益が悪化を続けている。にもかかわらず、貸出残高は前年比プラスを維持している(参考1参照)。

 

日本銀行黒田総裁も、金融仲介機能に障害は出ておらず、「現時点で「リバーサル・レート」の議論が適用されるとは全く考えていない」としている(2019年7月定例記者会見)。

 

では、なぜ銀行貸出は増え続けるのか。リバーサル・レートに達しないことは安心材料なのだろうか。

政府の全世代型社会保障検討会議がスタートした。高齢者の就労を後押しすることが柱の一つという。

 

長寿化、少子化の進む日本にとって、長く働く社会づくりは不可欠だ。65歳時点の平均余命は男性19年、女性24年と、1961年に国民年金が導入されて以来それぞれ約8年、約10年も延びた。この年数程度はより長く働くこととしても、違和感はないだろう。

 

政府は施策の一つとして、年金受給開始年齢の選択制を、現行の「60~70歳」から「60~75歳」に拡大する案を検討している。しかし、この案に沿い実際に年金受給を高齢へ繰り下げる人は少ないだろう。なぜか。

口座維持手数料の導入論議で語られぬこと ~マイナスの預金金利と日銀の説明責任

2019.10.01

銀行による口座維持手数料の導入可能性が取り沙汰されている。次の追加緩和でマイナス金利が深掘りされる場合、「銀行はいよいよ口座維持手数料の導入に踏み切るのではないか」との観測からである。

 

今回の手数料論議は、収益多様化のための個別戦略とは性格が異なる。あくまで「マイナスの預金金利の代替」としての手数料である。それほど銀行は収益面で追い込まれている。

 

日本銀行は「口座維持手数料はそれぞれの金融機関が経営判断」とするばかりだが、本当にそういうことだろうか。

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