金融経済イニシアティブ

山本謙三のコラム・オピニオン

山本謙三による金融・経済コラムです。

以前にも当コラムで指摘したが、政府が「成長戦略KPI」で掲げる開業率データは、実態を反映していない(末尾の「関連コラム」参照)。中小企業白書にならった扱いだが、そもそもの出所元である厚生労働省の統計自体が、開業、廃業を示すデータとして扱っていない。

 

なぜ、こうなるのか。

 

成長戦略KPIは多くのメディアが準拠する指標だけに、いまいちど何が起こっているかを確認しておきたい。

なぜ「構造要因で、6割の地銀が最終赤字に」は曲解なのか ~日銀試算が示唆する異次元緩和の深刻な帰結

2019.07.01

日本銀行が「金融システムレポート」2019年4月号で、銀行の中長期収益シミュレーションを行っている。結果は、「借入需要減少ケース」で、約6割の国内基準行(主に地域銀行)が10年後に最終赤字に陥るというものだった。

 

これを受け、多くのメディアが「構造要因で、地銀の6割が最終赤字に」と報じた。だが、これを構造要因とするのは曲解である。

 

地銀が深刻な状態にあることは間違いない。手をこまぬいているわけにはいかない。しかし、今回の日銀の試算結果が示すのは、むしろ異次元緩和の帰結である。多少技術的になるが、理由を考えてみたい。

 

山本謙三の金融経済イニシアティブ:誰が東京五輪を2度楽しむか ~戦後、長寿化はどれほど進んだか

2019.06.01

2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催まで、あと1年余りとなった。五輪誘致の際は、「前回の感動を、若者たちにも」が合言葉の一つだったと聞く。1964年の東京五輪は、それほど国民に誇りと感動をもたらした。

 

しかし、今回の東京オリ・パラをより多く楽しむのは、実は、時間に余裕のある高齢者ではないかとの見方がある。すなわち、2度目の東京五輪を迎える人々だ。一体、どれほどの人が2度目を楽しむことになるのだろうか。

異次元緩和の負のトライアングル:山本謙三の金融経済イニシアティブ ~縮む市場経済、軋む金融システム、緩む財政規律

2019.04.26

地域金融機関が苦境にあえいでいる。日本銀行が半年に1度公表する「金融システムレポート」でも、回をおうごとに経営基盤が弱体化していることが分かる。

 

収益悪化の理由は、①異次元緩和の長期化と②地域の資金需要の減少だ。日銀は後者の構造要因を強調するが、本当にそうか。メガバンクも、国内商業銀行業務の収益悪化は著しい。

 

そもそも、異次元緩和の生み出す金融環境があまりに極端なため、借入需要減少の影響を取り出して、各金融機関の真の実力を測ることすら難しい。現下の金融環境はどれほど「特異」だろうか。

キャッシュレス、誰がコストを負担するか:山本謙三の金融経済イニシアティブ ~No free lunch、タダで利用できる幸運はない

2019.04.01

 

前回のコラムで、日本は、電子マネーが銀行発行のデビットカードを凌駕する唯一の国であることを書いた(2019.03.01「なぜ銀行はキャッシュレスに出遅れたか」参照)。

 

たしかに、電子マネーに代表される非銀行系のキャッシュレスは、利用者(消費者)にとって「お得感」が強い。ポイントもクーポンもつく。だが、キャッシュレスをめぐる費用・便益の構造は複雑だ。インプリシットな(暗黙の)負担もある。利用者は、本当にコスト負担なしに便益を享受しているのだろうか。

なぜ銀行はキャッシュレスに出遅れたか:山本謙三の金融経済イニシアティブ ~電子マネーがデビットカードを凌駕する唯一の国

2019.03.01

 

日本はもともと、資金決済のオンライン化がいち早く進んだ国だった。1973年に全国銀行の内国為替システムが稼働を開始し、手形・小切手決済の多くがオンライン決済に移行した。家計の決済も、公共料金の自動引き落としや給与の振込みが広く利用されてきた。

 

だが、日々の買い物には現金決済が多く残った。現金の取り扱いは、店舗だけでなく銀行にも多額のハンドリング・コストがかかる。にもかかわらず、銀行によるキャッシュレスはなかなか進まなかった。最近のキャッシュレスも非銀行系企業が主導する。なぜこうなったのだろうか。

変貌する地方・大都市間の人口移動:山本謙三の金融経済イニシアティブ ~地方創生目標「2020年までに、東京圏への転入超ゼロ」の達成はいよいよ絶望的に

2019.02.01

「地方創生」には、いくつかの成果指標(KPI)が掲げられている。「東京圏への人口転出入を2020年時点で均衡させる」は、その一つだ。すなわち、東京一極集中の是正である。

 

「地方創生」が開始される直前(2013年)の東京圏への転入超数は、9.7万人だった(日本人移動者、注1)。その後の5年を経て、昨日公表された2018年の実績は、13.6万人の転入超を記録した。ゼロに向かうどころか、4割も拡大した(参考1)。今後多少の変動があるにしても、「2020年までに転入超ゼロ」の目標達成は絶望的といってよいだろう。

(注1)総務省「住民基本台帳 人口移動報告」は、2014年以降、外国人を含む移動者総数を公表しているが、本稿では過去と比較するため、日本人移動者のデータを用いている。 

 

景気や経済のイメージは、株価の動向でつくられがちだ。アベノミクスもその一つだろう。財政・金融両面から積極策がとられ、株価の水準(TOPIX)は、第二次安倍政権の発足後、2倍弱になった。「日本経済はアベノミクス下で復活した」とのイメージが一般的だろう。

 

では、実際はどうか。実質GDPの動向で確認してみよう。

消費増税対策はなぜ景気の平準化に寄与しないのか ~ポイント還元、プレミアム商品券は何のため?

2018.12.01

来年秋の消費税率引き上げを控え、増税対策のメニューが固まってきた。キャッシュレス決済へのポイント還元やプレミアム商品券の配布、住宅や自動車関連の減税、などだ。

多くの対策の狙いは、消費増税に伴う駆け込み需要と反動減を緩和し、景気を平準化することとされる。キャッシュレス決済へのポイント還元率も、当初想定の2%から5%に引き上げられた。対策の総額は、消費税率引き上げに伴う家計の負担増加額2兆円強に匹敵する規模になると伝えられる(2018年11月22日付け日本経済新聞朝刊)。

だが、この増税対策は景気の平準化にあまり寄与しない。なぜだろうか。

金融システムは「安定している」か ~日銀・金融システムレポートが多くを語らぬこと

2018.11.01

銀行の苦境が止まらない。全国銀行の総資金利ざや(注1)は、昨年度(2017年度)、ついに0.1%を割り込んだ。05年度のわずか5分の1の水準だ。銀行は経費を圧縮して対抗するが、追いつかない。

 (注1)総資金利ざや=貸出・有価証券等の資金運用利回りー資金調達原価(経費を含む)

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