なぜ政府は、実態を反映しない「開業率」データを使い続けるのか ~成長戦略KPIと統計データ
2019.08.01以前にも当コラムで指摘したが、政府が「成長戦略KPI」で掲げる開業率データは、実態を反映していない(末尾の「関連コラム」参照)。中小企業白書にならった扱いだが、そもそもの出所元である厚生労働省の統計自体が、開業、廃業を示すデータとして扱っていない。
なぜ、こうなるのか。
成長戦略KPIは多くのメディアが準拠する指標だけに、いまいちど何が起こっているかを確認しておきたい。
山本謙三による金融・経済コラムです。
以前にも当コラムで指摘したが、政府が「成長戦略KPI」で掲げる開業率データは、実態を反映していない(末尾の「関連コラム」参照)。中小企業白書にならった扱いだが、そもそもの出所元である厚生労働省の統計自体が、開業、廃業を示すデータとして扱っていない。
なぜ、こうなるのか。
成長戦略KPIは多くのメディアが準拠する指標だけに、いまいちど何が起こっているかを確認しておきたい。
日本銀行が「金融システムレポート」2019年4月号で、銀行の中長期収益シミュレーションを行っている。結果は、「借入需要減少ケース」で、約6割の国内基準行(主に地域銀行)が10年後に最終赤字に陥るというものだった。
これを受け、多くのメディアが「構造要因で、地銀の6割が最終赤字に」と報じた。だが、これを構造要因とするのは曲解である。
地銀が深刻な状態にあることは間違いない。手をこまぬいているわけにはいかない。しかし、今回の日銀の試算結果が示すのは、むしろ異次元緩和の帰結である。多少技術的になるが、理由を考えてみたい。
2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催まで、あと1年余りとなった。五輪誘致の際は、「前回の感動を、若者たちにも」が合言葉の一つだったと聞く。1964年の東京五輪は、それほど国民に誇りと感動をもたらした。
しかし、今回の東京オリ・パラをより多く楽しむのは、実は、時間に余裕のある高齢者ではないかとの見方がある。すなわち、2度目の東京五輪を迎える人々だ。一体、どれほどの人が2度目を楽しむことになるのだろうか。
地域金融機関が苦境にあえいでいる。日本銀行が半年に1度公表する「金融システムレポート」でも、回をおうごとに経営基盤が弱体化していることが分かる。
収益悪化の理由は、①異次元緩和の長期化と②地域の資金需要の減少だ。日銀は後者の構造要因を強調するが、本当にそうか。メガバンクも、国内商業銀行業務の収益悪化は著しい。
そもそも、異次元緩和の生み出す金融環境があまりに極端なため、借入需要減少の影響を取り出して、各金融機関の真の実力を測ることすら難しい。現下の金融環境はどれほど「特異」だろうか。
前回のコラムで、日本は、電子マネーが銀行発行のデビットカードを凌駕する唯一の国であることを書いた(2019.03.01「なぜ銀行はキャッシュレスに出遅れたか」参照)。
たしかに、電子マネーに代表される非銀行系のキャッシュレスは、利用者(消費者)にとって「お得感」が強い。ポイントもクーポンもつく。だが、キャッシュレスをめぐる費用・便益の構造は複雑だ。インプリシットな(暗黙の)負担もある。利用者は、本当にコスト負担なしに便益を享受しているのだろうか。
日本はもともと、資金決済のオンライン化がいち早く進んだ国だった。1973年に全国銀行の内国為替システムが稼働を開始し、手形・小切手決済の多くがオンライン決済に移行した。家計の決済も、公共料金の自動引き落としや給与の振込みが広く利用されてきた。
だが、日々の買い物には現金決済が多く残った。現金の取り扱いは、店舗だけでなく銀行にも多額のハンドリング・コストがかかる。にもかかわらず、銀行によるキャッシュレスはなかなか進まなかった。最近のキャッシュレスも非銀行系企業が主導する。なぜこうなったのだろうか。
「地方創生」には、いくつかの成果指標(KPI)が掲げられている。「東京圏への人口転出入を2020年時点で均衡させる」は、その一つだ。すなわち、東京一極集中の是正である。
「地方創生」が開始される直前(2013年)の東京圏への転入超数は、9.7万人だった(日本人移動者、注1)。その後の5年を経て、昨日公表された2018年の実績は、13.6万人の転入超を記録した。ゼロに向かうどころか、4割も拡大した(参考1)。今後多少の変動があるにしても、「2020年までに転入超ゼロ」の目標達成は絶望的といってよいだろう。
(注1)総務省「住民基本台帳 人口移動報告」は、2014年以降、外国人を含む移動者総数を公表しているが、本稿では過去と比較するため、日本人移動者のデータを用いている。
景気や経済のイメージは、株価の動向でつくられがちだ。アベノミクスもその一つだろう。財政・金融両面から積極策がとられ、株価の水準(TOPIX)は、第二次安倍政権の発足後、2倍弱になった。「日本経済はアベノミクス下で復活した」とのイメージが一般的だろう。
では、実際はどうか。実質GDPの動向で確認してみよう。
来年秋の消費税率引き上げを控え、増税対策のメニューが固まってきた。キャッシュレス決済へのポイント還元やプレミアム商品券の配布、住宅や自動車関連の減税、などだ。
多くの対策の狙いは、消費増税に伴う駆け込み需要と反動減を緩和し、景気を平準化することとされる。キャッシュレス決済へのポイント還元率も、当初想定の2%から5%に引き上げられた。対策の総額は、消費税率引き上げに伴う家計の負担増加額2兆円強に匹敵する規模になると伝えられる(2018年11月22日付け日本経済新聞朝刊)。
だが、この増税対策は景気の平準化にあまり寄与しない。なぜだろうか。
銀行の苦境が止まらない。全国銀行の総資金利ざや(注1)は、昨年度(2017年度)、ついに0.1%を割り込んだ。05年度のわずか5分の1の水準だ。銀行は経費を圧縮して対抗するが、追いつかない。
(注1)総資金利ざや=貸出・有価証券等の資金運用利回りー資金調達原価(経費を含む)