デジタルが金融を変える 考慮すべき6つの要素(5/6) ~プライシングが変わる
2020.04.28デジタル技術の浸透は、価格の設定方法(プライシング)も変える。
企業や金融機関は、需要、供給に関する情報を、時々刻々と手に入れられるようになった。料金改定に要する時間も、劇的に減った。
だが、それだけではない。異業種が、大胆なプライシング戦略をもって、金融業に参入してくる。金融機関は、この環境変化に対抗しなければならない。
(連載第5回。第1~4回は末尾関連コラムを参照。)
山本謙三による金融・経済コラムです。
デジタル技術の浸透は、価格の設定方法(プライシング)も変える。
企業や金融機関は、需要、供給に関する情報を、時々刻々と手に入れられるようになった。料金改定に要する時間も、劇的に減った。
だが、それだけではない。異業種が、大胆なプライシング戦略をもって、金融業に参入してくる。金融機関は、この環境変化に対抗しなければならない。
(連載第5回。第1~4回は末尾関連コラムを参照。)
デジタル技術の浸透で、金融市場のプレイヤーも変わる。その理由は明白だ。
新たなプレイヤーは、多くの機能をリバンドルした「一連のサービス」の提供を図る。その外延は、金融分野だけでなく、多分野にわたる。異業種にとって金融分野は、かかわりをもつ一分野との位置づけにある。
新規プレイヤーが展望する世界は、金融業が従来想定してきたものよりもはるかに広い。それゆえに、競争政策、信用秩序の維持など、既存の規制としばしば衝突する。突きつけられる課題は重い。
(連載第4回。第1~3回は末尾関連コラムを参照。)
金融サービスがデジタル技術の浸透で変わるのは、自明にみえる。
しかし、フィンテックの実例をみれば、劇的に変化したのは、サービスの周辺部にかかるプロセスが圧倒的だ。サービスのコア部分、すなわち預金、貸出などの根本にアクセスしているものは少ない。その意味で金融業、とりわけ銀行業は「枯れた産業」ともみえる。
それでも、デジタルのインパクトは計りしれない。金融機能を分解し、機能を組み直したり、付け加えることで、より高い付加価値を生み出すことができる。既存の規制や慣行をいったん横に置けば、新たなサービスの開発余地は存外大きい。
(連載第3回。第1~2回は末尾関連コラムを参照。)
デジタルが顧客接点を変えるのは、一目瞭然だ。英語表現でいえば、”brick-and-mortar to online”ーー「レンガとモルタルづくりの実店舗からオンライン店舗へ」ーーである。
銀行の顧客接点は、実際には、店舗窓口から、ATM、インターネットバンキングを経て、モバイルバンキングに移行しつつある。その意味で、顧客接点の変化は従来の延長線上にあるといえるが、考慮すべき論点は多い。
(連載第2回。第1回は末尾の関連コラムを参照)
デジタル技術の進化は、すべての企業に経営変革を迫る。金融業も例外ではない。いまや、すべての金融機関がデジタル技術の取り込みに躍起になっている。
しかし、デジタルがもたらすインパクトは、複雑かつ多岐にわたる。モバイルの利用にとどまらず、顧客の行動自体が変わる可能性すらある。変化の方向を読み誤れば、せっかくの投資も無駄に終わりかねない。
ヒントは、すでに蓄積のある製造業などの他分野にもあるだろう。以下では、他分野の経験も踏まえつつ、金融機関が考慮すべき要素を考えてみたい。
新型コロナウィルスの感染拡大で、世界の株価が急落した。金融市場は日本銀行によるETF買入れの増額を期待し、日銀も買入れ額の倍増を決めた。
不安心理の高まりから金融市場が不安定化するとき、中央銀行は資金供給に加え、民間金融商品の直接買入れに踏み切ることがある。過度に拡大したリスク・プレミアムの修正を図ろうとするものだ。
しかし、ほとんどの中央銀行は緊急時の措置と位置付け、対象をCP、社債に限る。株式を買い入れているのは、日銀がほぼ唯一の例外だ。
中央銀行は、株価維持機関と見られることを強く警戒する。現在の日銀も「ETF買入れは、株価の引き上げを狙った政策でない」と強調する。それでも市場は、株価下落時の日銀買入れをますます期待するようになった。なぜ、そうなのか。
一部の銀行が、口座維持手数料の導入を始めた。ただし、これまでのところは、不稼働口座への適用がほとんどだ。本格的な手数料の導入には、程遠い。銀行収益への寄与は限られるだろう。
預金口座を安全に管理するには、多額の費用がかかる。本業収益の悪化が著しい銀行にとって、口座維持手数料の導入は優先課題だ。しかし、導入のハードルは高い。
本稿では、昨年10月に本コラムで記した口座維持手数料の導入論議を改めて整理し、銀行の置かれた状況を確認したい(末尾関連コラムを参照)。
政府は、昨年末、地方創生第2期(2020~24年度)の総合戦略を閣議決定した。
第1期(2015~19年度)は基本目標の一つに「2020年までに東京圏への人口転入超ゼロ」を掲げたが、転入超数はむしろ拡大を続け、目標達成は絶望視されている。
それでも政府は目標を維持し、達成時期を25年に後倒しする方針だ。しかし、この目標はあまりに根拠に乏しい。実現はきわめて難しいだろう。なぜか。
居住する地方自治体から、「高齢者等実態調査」という名のアンケート調査が送られてきた。健康状態や高齢者施策に関する調査だ。細かいものを含め、質問数は130近くにのぼる。高齢者がすべて読み込めるか心配になるが、ひとまず横におこう。
対象者は「65歳以上の市民の方1,500名を無作為に選」んだという。65歳以上人口の3.7%に当たる。
回答は「無記名」とされ、「個人のプライバシーの侵害などのご迷惑をお掛けすることはありません」と記されている。
本稿は、自治体のプライバシー尊重の姿勢を疑うものではない。しかし、質問票の内容は、その気になれば、回答者を容易に特定できるようにみえる。無記名を強調するわりに、個人情報への感度は低い。
金融緩和の効果に関し、「リバーサル・レート」の議論が注目されている。
金利の大幅低下を背景に銀行収益が悪化すると、資本制約から金融仲介機能が阻害され、緩和効果がかえって反転(リバース)しかねないとの議論だ。
日本でも預貸金利ざやが縮小し、銀行収益が悪化を続けている。にもかかわらず、貸出残高は前年比プラスを維持している(参考1参照)。
日本銀行黒田総裁も、金融仲介機能に障害は出ておらず、「現時点で「リバーサル・レート」の議論が適用されるとは全く考えていない」としている(2019年7月定例記者会見)。
では、なぜ銀行貸出は増え続けるのか。リバーサル・レートに達しないことは安心材料なのだろうか。