量的・質的金融緩和(QQE)下でマネーはどこから生まれ、どこへ消えたか
2015.04.01マネーストックはマネタリーベースの半分しか増えていない
日本銀行による量的・質的金融緩和(QQE)の導入から、まもなく2年が経過する。この間、銀行預金は高めの伸びを続け、マネーストック(M3)も前年比3%弱を記録してきた(2014年5月「異次元緩和が終われば、民間預金は減少する?」参照)。しかし、日銀が供給してきたマネタリーベースの金額に比べれば、マネーストックの増加額は僅少にとどまる。
山本謙三による金融・経済コラムです。
日本銀行による量的・質的金融緩和(QQE)の導入から、まもなく2年が経過する。この間、銀行預金は高めの伸びを続け、マネーストック(M3)も前年比3%弱を記録してきた(2014年5月「異次元緩和が終われば、民間預金は減少する?」参照)。しかし、日銀が供給してきたマネタリーベースの金額に比べれば、マネーストックの増加額は僅少にとどまる。
わが国の国民一人当たり実質成長率は、2000年以降、G7諸国平均並みの伸びを続けている。2008~09年のリーマンショックによる落ち込みも、2013年までに取り戻した。国民生活は着実に豊かになってきたといってよいだろう。
それにもかかわらず、多くの認識は「国民生活はほとんど改善していない」というものではないか。なぜ、そうなるのか。ここでは労働市場の構造変化を踏まえて、一つの仮説を考えてみたい。
1年前、東京23区および政令指定20都市のなかで、札幌市、福岡市への人口流入が顕著であることを書いた(2014年2月「札幌、福岡はなぜ人口流入超トップ3なのか」 参照)。先般、2014年中のデータが公表されたので、最近の動きを改めて確認しておきたい(参考1)。
筆者のかねての主張は、「70歳まで元気に働こう」だ。経済的な理屈づけは別稿に譲り、本稿ではやや直感的な議論を紹介してみたい(2013年9月「70歳まで働いて帳尻を合わせよう」 参照)。
「老後を楽しむ」というのは、動物のなかで唯一ヒトにだけ与えられた特権だろう。他の動物は、生存のために一生自ら餌を探さなければならない。
あらかじめお断りすれば、本稿は若者世代の収入動向に関するものではない。実際の財布の中身、つまり手持ち現金の話である。
「今どきの若者は財布の中にあまり現金を持たない」――最近、よく耳にする話だ。周囲の若者たちに尋ねても、たしかに手持ち現金はずいぶん少ないように感じる。
5年ごとに実施される総務省「住宅・土地統計調査」(2013年調査)が7月に公表された。話題は空き家の増加に集中したが、持ち家世帯率(注)の推移も興味深い。
グローバル・バリュー・チェーン深化の特徴の一つは、生産拠点のグローバル分散だ(2013年12月「グローバル・チェーンにおける日本企業の立ち位置を探る」 参照)。しかし、バリュー・チェーンは、財だけでなくサービスの国際的な移転も担う。これをOECD-WTO「付加価値ベース貿易統計」にしたがって確認してみよう(注1)。
本年6月の安倍政権の成長戦略・改訂版には、前年に掲げられた開・廃業率目標と実績が示されている(参考1)。実は、民主党政権下の「日本再生戦略」(2012年7月)にも、ほぼ同じ内容の目標が盛り込まれていた。
この目標の趣旨は新陳代謝の促進とされる。その趣旨に異論はない。開・廃業率の引き上げも望ましい。しかし、メインメッセージである「開業率が廃業率を上回る状態にする」ことは難しいし、積極的な意味を見出しがたい。なぜか。
労働市場への参加の状況を、労働力率(労働力人口比率)でみてみよう。労働力人口とは、働いている者(就業者)と、無業者のうち、仕事があればすぐ就くことができ、かつ求職活動をしている者(完全失業者)の合計である。15歳以上の全人口に占める労働力人口の割合が労働力率だ。
近年の最大の特徴は、わが国全体の労働力率が急速に低下していることだ。労働力率は、1990年代前半にピークをつけたあと低下が続き、現在は過去最低圏内で推移している(参考1)。しかし、15~64歳に限れば、労働力率(同年齢層の人口に占める割合)は一貫した上昇傾向にある。つまり、15歳以上の全人口でみた場合と15~64歳の生産年齢層に限った場合とでは、まったくの逆方向にある。
銀行・協同組織金融機関の貸出、有価証券運用をめぐっては、「リスクのとり方が足りない」、「もっとリスクをとって果敢に貸し出すべき」といった論調が少なくない。たしかに自己資本との対比でみる限り、金融機関には全体としてリスクテイク余力が残っているようにみえる。
一方、金融機関自身からは、「将来を見通しにくいリスクが膨らんでいる」とか、「リスク・リターンのバランスが悪く、安易にリスクテイクを拡大できない」との声が聞かれる。以下、こうした認識のずれの背景を考えてみたい。