金融経済イニシアティブ

量的・質的金融緩和(QQE)下でマネーはどこから生まれ、どこへ消えたか

2015.04.01

マネーストックはマネタリーベースの半分しか増えていない

日本銀行による量的・質的金融緩和(QQE)の導入から、まもなく2年が経過する。この間、銀行預金は高めの伸びを続け、マネーストック(M3)も前年比3%弱を記録してきた(2014年5月「異次元緩和が終われば、民間預金は減少する?」参照)。しかし、日銀が供給してきたマネタリーベースの金額に比べれば、マネーストックの増加額は僅少にとどまる。

マネーストックとは、企業や家計等が保有する通貨の総量をいい、主に(1)現金と(2)預金からなる。マネタリーベースとは、日銀が供給する通貨の量をいい、(1)現金と(2)金融機関が日銀に預ける当座預金からなる。マネーストックをマネタリーベースで除したものが「信用乗数(または貨幣乗数)」である。

金融の伝統的な理解は、マネタリーベースを増やせば、それ以上にマネーストックが増えるというものだった。中央銀行が金融機関に資金を供給すれば、金融機関はこれを原資に貸出を行い、これが企業や家計の預金となって再び金融機関が貸出を増やす、、、というサイクルが想定されるからである。この場合、限界的な信用乗数は1を超える(注)。

(注)限界的な信用乗数=マネーストックの増加額 / マネタリーベースの増加額

実際、限界的な信用乗数は、QQE導入前までは――過去に比べ低下したとはいえ、――1を上回る水準が続いた。2000年代前半の量的緩和・ゼロ金利政策期、リーマンショック後の金融緩和期も、いずれもその値は2.5前後だった。

しかし、QQEの開始後、マネタリーベースとマネーストックの関係は劇的に変わった。2013年4月から本年2月にかけての限界的な信用乗数は、0.5 まで低下した。すなわち、マネーストックはマネタリーベース増加額の半分しか増えていない。マネタリーベースを増やせば、それ以上にマネーストックが増えるというサイクルは分断された(参考1参照)。

 

(参考1)限界的な信用乗数の推移


(注)マネーストックは2006年7月まで旧マネーサプライM2+CD、2008年10月以降M3
(出典)日本銀行「マネタリーベース統計」「マネーストック統計」を基にNTTデータ経営研究所が作成

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マネーストックの増加は新規国債発行額に対応したもの

では、日銀が供給したマネタリーベース増加額の半分は、どのような経路を通じてマネーストックを増やし、また、残る半分はどこに消えたのだろうか。「資金循環統計」を基にこれを確認してみたい。

2014年末までの1年9か月間、日銀のバランスシートは、資産項目である「国債等」が約130兆円増加し、これに見合って負債項目である「日銀預け金」が約120兆円増加した。国債買オペ等を通じ、年間+60兆円程度(14年10月以降は年間+80兆円程度)のペースでマネタリーベースを供給してきた結果といえる。

一方、預金取扱金融機関のバランスシートは、資産項目では「日銀預け金」と「貸出」がそれぞれ約120兆円、約30兆円増加する一方、「国債等」が約70兆円減少した。この間、負債項目では「現金・預金」が約70兆円増加した。

この関係を図示したのが参考2である。この図をみると、日銀が供給したマネタリーベース約120兆円(「日銀預け金」)のうち5割強が預金の増加につながり、残る5割弱は金融機関がもともと保有していた国債等の減少で相殺されたことが分かる。後者は、保有国債が日銀預け金に概ね入れ替わったことを意味する。

 

(参考2)QQE下の日本銀行、預金取扱金融機関のバランスシート変化
(2013/3月末⇒2014/12月末)


(注)国債等は、国庫短期証券、国債・財投債の合計額
(出典)日本銀行「資金循環統計」を基にNTTデータ経営研究所が作成

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上記の預金取扱金融機関の「現金・預金」増加額約70兆円は、実は、この間の新規の国債発行にほぼ見合う金額だ。2013年度の新規国債発行額(補正後)は45.5兆円、同2014年度(補正後)は40.4兆円だった。

この関係を理解するために、ここでは、まず中央銀行が新規発行国債を引き受ける場合を想定してみよう。この場合、中央銀行による国債引き受けの対価は、政府により財政資金として市中に支払われる。この結果、財政資金の支払いを受けた企業や家計の預金が増える。

その後、企業や家計がこれを原材料の購入や消費等にあてると、預金は取引相手に移転する。しかし、経済全体でみれば、預金の総量は変わらない。すなわち、新規発行国債の中央銀行引き受けは、――中央銀行が別途資金を市中から回収しない限り、――マネーストックをほぼ同額増やすことになる。

もちろん、現在の日銀は新規発行の国債を引き受けてはいない。国債の引き受けは財政法上原則禁止されている。しかし、日銀は、国債の発行後、比較的早い時点からこれを買オペの対象とし、市中から買入れている。マネーストックに対する影響の観点だけからみれば、新規国債発行相当額の国債買いオペは、引き受けの場合とほぼ同等の効果をもつ。

日銀は、QQE開始後これまで、新規国債発行相当額の2倍近い国債を市中から買い入れてきた(ネットベース)。したがって、マネーストックは、少なくとも新規国債の発行に見合う金額分増加するのが自然である。事実そうなった。QQE下のマネーストック増加は、日銀による新規国債発行相当額の買いオペの結果といえる。

マネタリーベース増加額の残り半分は国債との入れ替えに消えた

では、新規国債発行相当額を上回る買い入れ分は、どうなったか。日銀は、前述のとおり、新規国債発行相当額とほぼ同額の既発債や借換債相当額を購入してきた。にもかかわらず、冒頭述べたように、こちらはマネーストックにほとんど影響を及ぼしていない。

もともと既発債や借換債に見合う国債買いオペは、それ自体でマネーストックを増やすものではない。当該国債が新規に発行された時点で、すでにマネーを増やしているからである。しかし、通常の金融緩和期にあっては、国債の買いオペは金利の低下を促し、これが起点となって経済活動を活発化させ、貸出を増やし、マネーストックを増加させる。

だが、QQE下では、預金取扱金融機関の国債売却は、大方が日銀預け金の積み上げに向かい、それ以上の資金の循環を生み出すには至っていない(前掲参考2参照)。言い方を変えれば、既発債・借換債相当額分のマネタリーベースの増加は、「国債等」との入れ替えに消えた。

たしかにこの間、貸出も増えた。これを、日銀の巨額の国債買いオペが民間金融機関の貸出増加を促したとみなすこともできる。しかし、そうした貸出の増加も、今のところは国債等の減少で相殺され、預金の押し上げにはつながっていない。

もちろん、貸出の増加テンポが上がってきたのは最近の話であり、マネーストックにどのように影響するかは今後も注目していく必要がある。ただ、これまでに限っていえば、QQE下のマネーストック増加は、新規国債発行に見合う日銀買いオペの効果にほぼ尽きているようにみえる。

以 上

 

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