金融経済イニシアティブ

イノベーションか無用の長物か 2階建てエレベーターの話 ~タテのものとも、ヨコのものとも

2023.04.03

海外に出かけると、見たことのないモノに出くわすことがある。

 

設計者は画期的なイノベーションと考えたのだろうが、案外不便だったりする。

 

だが、真のイノベーションはトライアルの果てに生まれる。ならば、謙虚に面白がることにしたい。


2階建てエレベーター

 

1980年代半ば。
2年半をNYで過ごした。

 

仕事の関係で、よくLexington Ave. / 53丁目のシティコープ・センター(現シティグループ・センター)に出かけた。会議はいつも、59階建てビルの中層階で行われた。

 

初めてビルに訪れた際には、エレベーターの行き先階ボタンがすべて偶数階だったのに驚いた。

 

私が行きたいのは、奇数階だ。

偶数階しかないとすると、一つ上のフロアまで行って、階段で降りなければならない。

実際、階段はエレベーターのすぐそばにあった。

以後、毎回これを繰り返した。

 

ある日、エレベーターに乗って中層階に向かっていると、運転が突然停止した。

ドアは閉まったままである。

 

ん?故障か?

このままでは、会議に間に合わないではないか。

。。。

しかし、同乗者たちは一向に慌てる様子がない。

ん??

 

一瞬間をおいて、今度は天井の方からドタドタと足音らしき物音が聞こえてきた。

ん??なんじゃ、こりゃ???

 

そこで初めてエレベーターの案内表示を見た。

「只今、上の「カゴ」でお客様が乗り降りしていますので、少しお待ちください」

 

えっ?なんじゃ、こりゃ??

ってことは、もしかして、エレベーターが2階建て???

 

それまで私は2階建てのエレベーターを、見たことも、聞いたこともなかった。

 

会議が終わってから、改めて1階のエレベーターホールで観察する。

いままで全く気付かなかったが、乗り降りする場所は中2階と中1階に分かれており、一方が奇数階行き、もう一方が偶数階行きとなっていた。

 

ふ~む。はじめから中1階を選択していれば、会議室に直行できていたのか。。。。

 

それにしても、、、一体、なぜ2階建て???

想像するに、2階建てならば台数を半分に減らせて、スペースを節約できる。ラッシュ時に、たくさんの人を運ぶこともできる。

 

なるほどなぁ、よく考えられたものだ。。。

****

 

20年後、再びNYに赴任した。ある時、シティグループの傘下に入った保険会社トラベラーズで仕事ができた。

 

マンハッタンのウェストサイドにあるビルに出かけてみると、なんと、ここにも2階建てのエレベーターが。。。

 

(面談)

私「シティグループというのは、なにか2階建てのエレベーターに、こだわりでもあるのか?」

面談相手「“A good question!”と言いたいところだが、んなわけない(笑)」

私「2階建てエレベーターとは、使い勝手のいいものなのか?」

先方「“A very, very good question”だ。日ごろ利用している我々にとっては、不便この上ない。フロアを移動しようとすると、エレベーター内で待たされることがあるし、一つ上の階まで行って降りてこなければならないこともある。まったく。。。」

 

***

 

その後、日本にも2階建てエレベーターは登場した(六本木ヒルズ)。

アジア地域にもいくつかの超高層ビルに採用されているようだ。ぜひ、日頃利用している皆さんに使い勝手を聞いてみたい。

 

フランクフルト国際空港のモノレール

 

ドイツ・フランクフルト国際空港のターミナル間移動には、「スカイライン」と呼ばれるモノレールを利用する。

過去に1度乗車したことがあるだけなので、私の思い違いがあるかもしれない。その場合は、ご指摘をお願いしたい。

 

日本から直行便でフランクフルト空港に到着し、スカイラインのプラットフォームに向かう。

しかし、2両連結の車両のうち、乗り込むことができるのは先頭車両だけだ。うしろの車両のドアは開かない。

 

乗車後も、前後2両の間は行き来できない。

 

一体、なんのための2両連結??

 

実は、私たちが乗車したプラットフォームの反対側にもプラットフォームがあり、一つの列車を両方のプラットフォームが挟み込むつくりになっている。

 

反対側のプラットフォームの乗客が乗れるのは、うしろの車両だけ。やはり、車両間の行き来はできない。

つまり、こちら側から先頭車両に乗り込んだ客はどの駅でもこちら側から、あちら側から後ろの車両に乗り込んだ客はどの駅でもあちら側から乗り降りすることになる。

 

一体、これはどうしたことか??

 

ここからは、私の想像である。いろいろと調べてみたが、事実がはっきりしないので、私の想像だと思って読んでいただきたい。

 

想像するに、こちら側のプラットフォームは、入国審査前あるいは出国審査後の乗客だけが利用するもの、つまり観念的にはドイツ国外の扱いではないか。

一方、あちら側のプラットフォームは、入国審査後あるいは出国審査前の乗客だけが利用するもの、つまりドイツ国内の扱いだ。

 

この2種類の乗客を区別しつつ、効率的に運べるようにしたのがスカイラインではないか。

 

多くの国際空港は、同様の2種類の乗客を区別するため、2系統のバスを走らせている。国内サイドのターミナル間移動のバスと、空港内(国外サイド)のターミナルを結ぶ移動バスである。

 

フランクフルト空港のモノレールは、これら2系統のニーズを1本の列車で満たそうとしたものではないかと思う。

 

タテのものとも、ヨコのものとも

 

ふむふむ、なるほど。なかなか面白い。

ん??

どこかで、似たような話を聞いたことが、、。

 

あ、そうだ。

2階建てエレベーターとそっくりではないか。

「タテ」のものを「ヨコ」に置き換えたような話である。

 

乗客と運ぶ「カゴ(車両)」を二つに分け、一度に運べばスペースの節約になる。

 

しかし、2階建てエレベーターよりもモノレールの方が、便利にみえるのはなぜか。

 

モノレールはすべての駅に必ず止まるので、不要な「待ち時間」と感じなくて済むからなのか。

しかし、効率、非効率を測るには、もう少し緻密な研究が必要だろう。

 

それにしても、世の中にはいろいろな工夫があるもんだ。
成功も失敗もある。だから人生は面白い。

 

 

(イラスト:鵜殿かりほ)