金融経済イニシアティブ

査問会議

2019.12.17

それまでは、妻の誕生日にプレゼントする習慣など全くなかった。

 

数年前、業務継続要員として都心に単身赴任していた頃のことだ。

たまたま通りかかった本屋の店先で、なぜかブランドネームのトートバッグを見つけた。

 

値段3,950円。気まぐれに買ってみた。

店主が適当にラッピングしてくれ、おまけに小じゃれた手提げもつけてくれた。

 

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1週間後、妻の誕生日。

自宅に戻り、さっそくプレゼントを披露する。

 

彼女は、とりあえず喜んだ風を装いながら、「どこで買ったか」とさかんに尋ねてくる。

このあたりは、私の妻である。

 

私「**町」

妻「ん?どーして、**町?」

私「**町は、ファッションの卸問屋が多いから」

妻「ふ~ん、で、いくら? 」

私「いやいや、値段は気にしなくていいから。。。」

妻「1万円くらい?」

私「いやいや、値段は気にしなくていいから。。。ま、そこまではしなかったがな」

妻「ふ~~ん」

 

と、そこへ、そば耳をたてていた長女がやおらスマホを取り出し、検索を始める。

 

娘「お、ネットショップじゃ3,900円と書いてあるぞ。」

私「ん?」(黙れ、娘!←私の内心の声)

妻「ほんと?」

私「いやいや、さすがにそんなには安くなかったぞ!それは中古品じゃないかぁ?」(ふ~っ)

 

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その後、妻と娘は、なぜかトートバッグよりもおまけの手提げの方がたいそう気に入り、交代でしばしば持ち歩いていた。

 

ある日曜、原宿に出かけていた娘が玄関でなにやら騒いでいる。

娘「お母さん、たいへんだぁ」

妻「どした?」

娘「原宿の店で、店員さんに『この素敵な手提げ、雑誌の付録ですよね』って言われたぞぃ。」

 

あ、ヤバ。これは、ひじょーにヤバい。

あわてて自室に引き下がる私。

 

3分後、ノックの音とともに、「ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが」と、妻の慇懃な声。

しぶしぶリビングに出頭する私。

 

妻「ちょっとお尋ねしますが、先日のトートバッグはどこでお買いになったんでしょうか?」

私「え?、え~っと、この前も言ったように**町」

妻「ふむ。で、**町のどこ?」

私「え?、え~、**本屋。」

妻「え、なに?よく聞こえない」

私「え、え~っと、**町の本屋」

妻「え?、本屋?、なぜ本屋?」

私「なぜ本屋?、さぁて?、なぜか本屋。でも、本物には間違いない。」

妻「あ、そ。で、おいくら?」

私「え~と、3,950円ぐらいだったかな

妻「え、聞こえない」

私「たしか、3,950円ぐらいだったか

妻「はぁ?この前はたしか1万円くらいって言ってましたよね」

私「いえいえ、滅相もございません。そんなことは一切言っておりません」

 

そこへ、長女、またまた登場。

娘「ふむ、たしかに1万円はしないと言ってたな」

私「ほらほら」

妻「お黙り」

私「あ、はい」

 

こうして、理不尽にも、プレゼントを贈ったはずの私に対する査問会議が、まだまだ続くのだった。

 

(イラスト:鵜殿かりほ)