スマホを落としただけなのに(後編)
2025.10.01[本編は、先月アップした前編の続きです。よければ、「スマホを落としだだけなのに(前編)」からご覧ください。]。
7月の金曜夕刻、京都でスマホを失くした私は、発見できないまま、新幹線で帰京した。
千葉の自宅に辿り着いたのは、23時過ぎだった。
妻からは「まだどこからも連絡がない」と聞かされる。
淡い期待は泡と消えた。
10万分の1の確率
自宅の固定電話から携帯会社に電話をする。
携帯会社によると、私は「ケータイお探しサービス」の加入者なので、「まずは、今どこにスマホがあるかをお調べましょうか」とのことだった。
さっそく調べてもらったところ、①18時半ごろにスマホの電源が切られている、②電源が切られる直前は京都市**寺周辺にあった、とのことだった。
しかし、私は**寺周辺に立ち寄っていない。
やはりタクシーの中か。
あるいは、誰かが持ち去って、移動している??
ん~~。
埒(らち)があかないので、まずは携帯会社に電波を止めてもらう。これで電話としては、使えなくなった。
しかし、「近くのWi-Fiに接続すれば、インターネットにはつながる」とのことだった。
なるほど。
コンピュータ―としての機能も通信機能も、生きたままということである。スマホを立ち上げさえすれば、電話以外のほぼすべての機能が普段どおりに使えるというわけか。
う~~、
スマホのセキュリティーが破られ、無断使用される可能性はどれほどか。
最近は専ら「顔認証」に頼っているが。。。。
改めて携帯会社に尋ねると、iPhone14の場合、①顔認証の代わりに6桁の正当な数字を打ち込めばロックが解除される、②この機種の場合、10回入力を間違えれば、ロック解除ができなくなる、とのことだった。
理屈としては、100万回に10回、つまり10万分の1の確率となる。
さすがに、10万分の1の確率を引き当てるのは難しいだろう。
しかし、万一犯罪者集団の手に渡れば、どうか?
プロの技術を使えば、簡単に打ち破られるのではないか?
このあたりの真偽が、さっぱり分からない。
多要素認証がぁぁ、、、
スマホにはモバイルスイカやナナコを搭載しているが、これらは諦めもつく。
問題は、預金口座などもスマホ上で操作してきたことだ。
何重かのパスワードをかけてブロックしているつもりだが、アカウントのIDやパスワードはスマホ上に記憶させている。
ロック解除には顔認証を使っているが、その強度はどうか?
心配しだすとキリがない。
最悪の事態を想定して、手を打つしかないか。
そうか、いいことを思いついたぞ!
預金口座なども、マイアカウントにアクセスするときは、必ずIDとパスワードを入力している。
ならば、自宅のパソコンからアクセスして、アカウントに入るためのパスワードを変えてしまえば、スマホ上の記憶は役に立たなくなるはずだ。
よし、よし。やってみよう。
パソコン上で、マイアカウントにアクセスし、新しいパスワードへの変更を申し出る。
が、次の画面が私を絶望の淵に追いやった。
[パスワード変更のお申し出がありましたので、本人確認のためご登録の電話番号に認証番号を(ショートメッセージで)送付しました。以下の欄に認証番号をご記入ください]
私が登録した電話番号は、スマホである。
スマホをもたない私は、認証番号を見ることができない!
これが、「なりすましによる不正防止」のための多要素認証の仕組みである。
スマホがなければ、私自身も「なりすまし」扱いというわけだ。
絶望。。。
紛失届
かくして、夜は過ぎていった。
繰り返しになるが、心配し始めると、キリがない。
こうなれば、加入している「smartあんしん補償」を使って、機種の交換(補償)を携帯会社に申請するのが、最終的な防衛策に思える。
直ちに手続きをとれば、約2日後には代替の電話機が受け取れるという。
推測ではあるが、紛失した機材との連動関係はその時点で断ち切られるのではないか(推測なので、自信はない)。
そのためには、まずは近くの警察署に紛失届を出し、受理番号を携帯会社に伝える必要があるという。
とにもかくにも来週の予定すら分からないので、腹をくくり、朝一番で交番に出かけることを決心し、ひと眠りすることにした。
時計の針は、朝4時半を回っていた。
起床のアラームが。。。
早朝、妻から叩き起こされる。
朝6時半だった。
妻「いま、私の携帯にタクシー会社の営業所から電話があって、それらしきものが遺失物として届いたそうよ。まず、スマホに電話をかけて、貴方のものかどうかを確認してほしいとのこと。まずは、電波を再開することね」
私「お、お、お、おお!」
急ぎ携帯会社に連絡をとり、電波を再開してもらった。
続いて、自宅の固定電話からタクシー会社へ電話を。
私「さきほど、電話を頂戴した者ですが、携帯の電波を再開してもらったので、こちらからスマホに電話をかけてみます」
タクシー会社「あ、その前にね。。。なんか、このスマホ、しょっちゅう音が鳴って、うるさいんですけど。。。」
私「ん?」
タクシー会社「・・・」
私「(あ、そうか!)すんません。それ、毎日の起床のアラームをかけてまして。。。停止ボタンを押さないと、何分か後にまた鳴る設定で、、」
タクシー会社「なるほど」
私「アラームが鳴っている最中に、画面に表示が出るので、下の方にある停止ボタンを押してください」
タクシー会社「あ、そ」
なんとも、人騒がせな私である。
停止ボタンを押してもらって、ようやく話が進められるようになった。
こちらから携帯に電話をし、私のものであることを証明した上で、夜までに営業所まで取りに行く約束をして、電話を切った。
ただただ平身低頭、感謝、感謝である。
京都、再び
当日(土曜)も、たまたま午後に東京で別の講演の予定があった。
講演会に行く途中、時間があったので喫茶店に立ち寄る。
コーヒーを飲んでいる間、ついつい、スマホホルダーに手を伸ばしてしまう。
スマホは、いまや暇つぶしの道具だ。
スマホのなかった時代、私たちは、どうやって暇つぶしをしていたのだろうか。。。。
思い出せない。
講演を終え、夕刻の新幹線で再び京都へ。
タクシー会社で無事回収し、自宅へトンボ返りをする。
自宅に戻ったのは、やはり昨晩とほぼ同じ時刻だった。
長い旅だった。コストは高くついたが、「安心」の方がはるかに大きい。
紛失したままでは、翌週の予定を一つすっぽかすところだった。
妻の協力もあった。先回りして、携帯会社に紛失時の対応を聞いてくれていたのも、助かった。
タクシー会社などからの連絡の中継基地として、妻の携帯電話を利用できたのは、ありがたかった。
最近は、スマホしかもたない独身男女が増えているが、彼ら/彼女らがスマホを落としたとき、誰を頼って、どう事態を打開するのだろうか。
想像が付かない。
妻からひと言
すべてが終わり、3日後の食事時。
妻が尋ねてくる。
妻「ところで、あなた、スマホを失くす前に、何か言ってたのを覚えてる?」
私「ん?何だっけ?」
妻「スイカのカードをやめて、全部モバイルスイカに切り替えたとか」
私「あぁ、そうだったけな」
妻「そのとき、私のことを、時代遅れだとかなんとか言ってました」
私「え?、、そんなこと、、、、言ったっけ?」
妻「はい、言いました。」
私「そうかな?」
妻「はい。それに、私がいまも手帳を使ってスケジュール管理していることに『古いなぁ~』とも言ってました」
私「・・・」
妻「何か、お言葉は?」
私「あ、はい、すべて私が間違っておりました、深く心に刻み、今後はこのようなことがないよう注意いたします」
妻「よろしい」
(イラスト:鵜殿かりほ)