金融経済イニシアティブ

スマホを落としただけなのに(前編)

2025.09.01

7月の金曜夕刻、京都での講演を終え、会場をあとにした。

京都駅に到着後、スマホが無いことに気づいた。

落としたか、忘れたか。。。

 

途方に暮れる。

スマホなしでは、メールも読めないし、来週の予定も分からない。

 

結果をあらかじめ述べれば、約27時間後に無事回収できた。

幸運もあった。

 

京都での講演の主催者、講演会場のホテル、タクシー会社の方々に、本当によくしていただいた。

家族の協力もあった。

心からお礼を申しあげるとともに、反省を込め、ここに記録を残すこととしたい(全2回)。

 

 

公衆電話が見当たらない!

 

紛失に気付いたのは、京都駅でタクシーを降り、何気なくスマホホルダーに手を伸ばした時だった。

 

いつもの感触がない。

ん?...なに?

やば!

 

ホルダーを覗くと、あるべきスマホが見当たらない。

あわててカバンやスーツのポケットを探るも、出てこない。

 

周囲の景色が突如暗転した。

わ、わ、わ~。

 

とりあえず、京都駅までの道のりを思い出してみる。

最後にメールを打ったのは、講演の直前、会場のホテルでだった。

とすると、落としたのは、講演会場かタクシーの中のどちらかだろう。

 

ん?タクシー??

あちゃ~、レシートをもらわなかった。

これでは、タクシー会社も分からないではないか! う、う、う~~。

 

必死になって、記憶を呼び戻してみる。

たしか、車体の屋根に提灯(ちょうちん)が。。。

 

ぼんやりと、姿かたちが浮かび上がってくる。

おそらく**タクシーではないか。

当たっていることを、ただただ願うばかりだ。

 

まずは、京都での滞在時間を確保するため、東京への帰りの列車を変更する。

自動券売機で、17時発の列車を、当日の最終便に変更した。

 

次に、講演主催者に電話して、支援をお願いしよう。

しかし、電話をかけようにも、スマホがない!

公衆電話を探さねば。。。

 

だが、駅周辺をどんなにうろついても、公衆電話は見当たらなかった。

携帯の普及で公衆電話が減ったとは聞いていたが、これほどとは!

 

JR京都駅に隣接する近鉄京都駅の案内所に駆け込み、公衆電話があるかどうかを尋ねる。

幸い、同駅構内1階に1台あった。

 

ちなみに、私が散発的に利用した2時間半の間、この電話を利用したのは、私のほかには外国人旅行者1人がいるだけだった。

このままでは、公衆電話は完全消滅するだろう。その時、スマホを紛失した人は一体どうすればいいのだろうか?

 

ペットボトルがぁ。。。

 

さっそく、公衆電話から講演会の担当者に電話をかける。

担当はたいへん親切な方で、話を丁寧に聞いてくださった。

 

一方、私の公衆電話に関する知識は、「市内3分10円」で止まっていた。

手元にあった10円玉はあっという間になくなり、電話を途中で切るはめになった。

 

あわわわわ。。。

100円玉をたくさん用意せねば。

 

JRの駅案内所に駆け込み、尋ねてみる。

私「近くに、両替機がありますか?」

案内「はぃはぃ、外国為替の両替所ならば、あちらに」

私「あ、いえ、そうじゃなくて、紙幣を硬貨に両替したいんですが。。」

案内「あ、そうですか。。。このあたりに両替機は見かけませんねぇ。。」

 

仕方がない、コンビニで飲料水のペットボトルを買って、お釣りを稼ぐことにしよう。

 

かくして公衆電話を利用する度にペットボトルの数は増え、最後にはリュックにボトル4本を放り込むこととなった。

精神的にも物理的にも、スマホ紛失の事実が私の両肩にずっしりと重くのしかかった。

 

キャッシュレス、恐るべし

 

改めて講演会の担当者に電話をすると、すでに会場のホテルとタクシー会社に連絡をとってくれていて、今のところ見つかっていないとのことだった。

感謝の至りである。

それぞれの電話番号を聞き、礼を述べて電話を切る。

 

今度は、妻に電話。

妻とは、もっぱらLINEでやりとりするばかりなので、携帯番号が分からない。

だが、手帳に、妻作成の緊急連絡先リストがあった。

お、お~。なかなかやるではないか。

 

妻に電話をかけ、これからホテルとタクシー会社に妻の携帯番号を知らせるので、何か連絡があれば聞いておいてほしいと頼む。

 

続いて、ホテルとタクシー会社に電話。

 

ホテルには、講演の会場となった部屋を探してもらったが、見つからなかった。お礼を述べ、今後なにかの拍子に出てきたら、妻の携帯に連絡してくれるよう、お願いする。

 

タクシー会社の方は、「運転手さんたちが勤務を終え、営業所に戻るのは夜遅く。さらに、複数の営業所から紛失物の連絡が集まってくるのは、深夜以降になる」とのことだった。礼を述べ、こちらにも妻の携帯番号を伝える。

 

その後、改めて妻に電話をすると、「今のところ何もないが、携帯会社に電話をして、これからやるべきことを聞いておいた」という。

 

①「ケータイお探しサービス」に加入していれば、携帯会社から現在のスマホのありかを調べることができる、
②携帯が自由に使われないよう、携帯会社から電波を止めることができる、
③どちらも本人が直接携帯会社に電話して依頼する必要がある、
④携帯の紛失は、24時間365日電話相談を受け付けている(電話番号は***)、
等々だった。

 

多謝、多謝。

しかし、100円玉を気にしながら、公衆電話から相談できる話ではなさそうだ。自宅(千葉)に帰る決断をする。

 

新幹線の乗車変更は、1度しかできない。すでに最終便に変更したあとなので、手数料を支払って「払い戻し」を受け、新たな指定券を買う必要がありそうだ。

 

緑の窓口は、インバウンド観光客でごった返していたが、行列に並ぶ。

 

20分ほど待っただろうか。ようやく私の番が来た。

 

窓口で払い戻しを依頼するが、当初のチケットの購入先(JR東日本)と、京都駅(JR西日本)とでは管轄する会社が違うため、この場では「払い戻し」はできないという。チケット券面上に証明を発行するので、「払い戻し」は後日JR東日本の緑の窓口で行い、ここでは新しい乗車券と指定券を購入してほしい、との説明だった。

 

なるほど。

幸い、手元にクレジットカードがあったので、無事チケットを買うことができた。

もし、クレジットカードもスマホに集約し、現物のカードを持ち歩いていなければ、どうなっていただろうか。

キャッシュレス、恐るべし、だ。

 

19時半発の新幹線に乗り込んだ。窓の外は、すでに夜の帳(とばり)が下りていた。窓には、私の沈鬱な顔が映っていた。暗澹たる気分を乗せたまま、列車は東へと向かうのだった。

 

[後編に続く。後編は10月初めにアップの予定です]

 

(イラスト:鵜殿かりほ)