スマホを落としただけなのに(前編)
2025.09.017月の金曜夕刻、京都での講演を終え、会場をあとにした。
京都駅に到着後、スマホが無いことに気づいた。
落としたか、忘れたか。。。
途方に暮れる。
スマホなしでは、メールも読めないし、来週の予定も分からない。
結果をあらかじめ述べれば、約27時間後に無事回収できた。
幸運もあった。
京都での講演の主催者、講演会場のホテル、タクシー会社の方々に、本当によくしていただいた。
家族の協力もあった。
心からお礼を申しあげるとともに、反省を込め、ここに記録を残すこととしたい(全2回)。
公衆電話が見当たらない!
紛失に気付いたのは、京都駅でタクシーを降り、何気なくスマホホルダーに手を伸ばした時だった。
いつもの感触がない。
ん?...なに?
やば!
ホルダーを覗くと、あるべきスマホが見当たらない。
あわててカバンやスーツのポケットを探るも、出てこない。
周囲の景色が突如暗転した。
わ、わ、わ~。
とりあえず、京都駅までの道のりを思い出してみる。
最後にメールを打ったのは、講演の直前、会場のホテルでだった。
とすると、落としたのは、講演会場かタクシーの中のどちらかだろう。
ん?タクシー??
あちゃ~、レシートをもらわなかった。
これでは、タクシー会社も分からないではないか! う、う、う~~。
必死になって、記憶を呼び戻してみる。
たしか、車体の屋根に提灯(ちょうちん)が。。。
ぼんやりと、姿かたちが浮かび上がってくる。
おそらく**タクシーではないか。
当たっていることを、ただただ願うばかりだ。
まずは、京都での滞在時間を確保するため、東京への帰りの列車を変更する。
自動券売機で、17時発の列車を、当日の最終便に変更した。
次に、講演主催者に電話して、支援をお願いしよう。
しかし、電話をかけようにも、スマホがない!
公衆電話を探さねば。。。
だが、駅周辺をどんなにうろついても、公衆電話は見当たらなかった。
携帯の普及で公衆電話が減ったとは聞いていたが、これほどとは!
JR京都駅に隣接する近鉄京都駅の案内所に駆け込み、公衆電話があるかどうかを尋ねる。
幸い、同駅構内1階に1台あった。
ちなみに、私が散発的に利用した2時間半の間、この電話を利用したのは、私のほかには外国人旅行者1人がいるだけだった。
このままでは、公衆電話は完全消滅するだろう。その時、スマホを紛失した人は一体どうすればいいのだろうか?
ペットボトルがぁ。。。
さっそく、公衆電話から講演会の担当者に電話をかける。
担当はたいへん親切な方で、話を丁寧に聞いてくださった。
一方、私の公衆電話に関する知識は、「市内3分10円」で止まっていた。
手元にあった10円玉はあっという間になくなり、電話を途中で切るはめになった。
あわわわわ。。。
100円玉をたくさん用意せねば。
JRの駅案内所に駆け込み、尋ねてみる。
私「近くに、両替機がありますか?」
案内「はぃはぃ、外国為替の両替所ならば、あちらに」
私「あ、いえ、そうじゃなくて、紙幣を硬貨に両替したいんですが。。」
案内「あ、そうですか。。。このあたりに両替機は見かけませんねぇ。。」
仕方がない、コンビニで飲料水のペットボトルを買って、お釣りを稼ぐことにしよう。
かくして公衆電話を利用する度にペットボトルの数は増え、最後にはリュックにボトル4本を放り込むこととなった。
精神的にも物理的にも、スマホ紛失の事実が私の両肩にずっしりと重くのしかかった。
キャッシュレス、恐るべし
改めて講演会の担当者に電話をすると、すでに会場のホテルとタクシー会社に連絡をとってくれていて、今のところ見つかっていないとのことだった。
感謝の至りである。
それぞれの電話番号を聞き、礼を述べて電話を切る。
今度は、妻に電話。
妻とは、もっぱらLINEでやりとりするばかりなので、携帯番号が分からない。
だが、手帳に、妻作成の緊急連絡先リストがあった。
お、お~。なかなかやるではないか。
妻に電話をかけ、これからホテルとタクシー会社に妻の携帯番号を知らせるので、何か連絡があれば聞いておいてほしいと頼む。
続いて、ホテルとタクシー会社に電話。
ホテルには、講演の会場となった部屋を探してもらったが、見つからなかった。お礼を述べ、今後なにかの拍子に出てきたら、妻の携帯に連絡してくれるよう、お願いする。
タクシー会社の方は、「運転手さんたちが勤務を終え、営業所に戻るのは夜遅く。さらに、複数の営業所から紛失物の連絡が集まってくるのは、深夜以降になる」とのことだった。礼を述べ、こちらにも妻の携帯番号を伝える。
その後、改めて妻に電話をすると、「今のところ何もないが、携帯会社に電話をして、これからやるべきことを聞いておいた」という。
①「ケータイお探しサービス」に加入していれば、携帯会社から現在のスマホのありかを調べることができる、
②携帯が自由に使われないよう、携帯会社から電波を止めることができる、
③どちらも本人が直接携帯会社に電話して依頼する必要がある、
④携帯の紛失は、24時間365日電話相談を受け付けている(電話番号は***)、
等々だった。
多謝、多謝。
しかし、100円玉を気にしながら、公衆電話から相談できる話ではなさそうだ。自宅(千葉)に帰る決断をする。
新幹線の乗車変更は、1度しかできない。すでに最終便に変更したあとなので、手数料を支払って「払い戻し」を受け、新たな指定券を買う必要がありそうだ。
緑の窓口は、インバウンド観光客でごった返していたが、行列に並ぶ。
20分ほど待っただろうか。ようやく私の番が来た。
窓口で払い戻しを依頼するが、当初のチケットの購入先(JR東日本)と、京都駅(JR西日本)とでは管轄する会社が違うため、この場では「払い戻し」はできないという。チケット券面上に証明を発行するので、「払い戻し」は後日JR東日本の緑の窓口で行い、ここでは新しい乗車券と指定券を購入してほしい、との説明だった。
なるほど。
幸い、手元にクレジットカードがあったので、無事チケットを買うことができた。
もし、クレジットカードもスマホに集約し、現物のカードを持ち歩いていなければ、どうなっていただろうか。
キャッシュレス、恐るべし、だ。
19時半発の新幹線に乗り込んだ。窓の外は、すでに夜の帳(とばり)が下りていた。窓には、私の沈鬱な顔が映っていた。暗澹たる気分を乗せたまま、列車は東へと向かうのだった。
[後編に続く。後編は10月初めにアップの予定です]
(イラスト:鵜殿かりほ)