金融経済イニシアティブ

掃除当番あるいは番犬の話 ~会計は難しい

2023.09.01

犬はペットとしてだけでなく、仕事もする。

世界各地の空港や街中で、爆発物や薬物の探知に当たる犬を見かける。

 

ドイツの中央銀行ブンデスバンクでは、敷地内を犬が巡回警備していた。いかにもドイツ人が好きそうな、大型犬だ。

そういえば、日本でも、昔、たばこ屋の軒先に犬や猫が寝そべっていた。いわゆる「看板犬」「看板猫」である。

 

会計処理やいかに

 

気になるのは、これらの犬や猫がどのように会計処理されるかだ。

ペットとは違い、事業の収益を生み出す資産だから、当然、会計処理が必要だろう。

 

調べてみると、次のようなことだった。

 

(1)購入費用が30万円以上の看板犬や番犬は、勘定科目「器具及び備品」として固定資産に計上される。

(2)この場合、固定資産税がかかる。

(3)償却が必要な固定資産として、耐用年数に応じて減価償却(費用計上)される。犬、猫の場合、耐用年数は一般に8年という。

 

ふ~む、なるほど。

「器具及び備品」かぁ。。。

 

オフィスの見張りをする者として

 

ひるがえって、私である。

 

狭いスペースに一人事務所を構え、原稿書きなどにいそしんでいる。

同時に、「番犬」として事務所の見張りもしている。来訪者はさほど多くないが、部屋の掃除もし、事務所の安寧に努めている。

 

さらにいえば、「看板犬」のようでもある。

誰もそうは見てくれないが、私がいなければオフィスの「のれん」を守れない。ま、一人事務所なので、当たり前っちゃあ、当たり前だが。。。

 

では、私自身を貸借対照表(バランスシート)に載せるとすれば、どんなものだろうか。

 

もちろん、人間は会計処理の対象とはならない。

しかし、最近流行(はやり)の「人的資本形成」や「給与も研修費用も人への投資」といった言い方自体が、会計の発想から来ているようにみえる。

 

資産価値やいかに

 

天の声(=オフィス運営者としての私)「んなわけで、君の会計上の取り扱いを決めねばならんのよ」

私「えっ!? まさか勘定科目を決めるとか。。。」

天の声「うん、ま、そこはそれよ」

私「まさか「器具及び備品」ではないでしょうね?」

天の声「ま、、、、それは、あとのお楽しみということで」

私「う。。ちっとも楽しくない!」

 

 

天の声「ま、それはそれとして、まずは君の資産価値を決めねばならんのよ」

私「はぁ、10億でも20億でも」

天の声「えっ? そんなことしたら、固定資産税だけで破産してしまう」

私「いやいや、真っ当に評価していただかないと。。。」

 

天の声「ふ~む、真っ当な評価かぁ。。。では、なかなか言いにくいのだが、、、計算では、1195円となる」

私「え、えーっ! 看板っすよ、オフィスのカ・ン・バ・ン」

天の声「う~ん、大した看板ではないと、人工知能が判断している」

 

私「いやいや、「KYな話」なんか、結構人気があって、、」

天の声「そぅ? 最近はネタ切れで、苦し紛れが目立つとか」

私「いや、いや、アイデアの湧き出ること、湯水のごとく」

天の声「湯水のごとく、、、無味乾燥ってか」

私「む。」

天の声「以前は「ウソは書かない」と豪語してたけど、最近は「ウソしか書かない」との噂もある」

私「め、滅相もない。ウソを書いたことは一度もありませんっ!  多少誇張があるだけで。。。

天の声「そう? 奥さんが「誇張が過ぎる」と言ってるとか」

私「ちっ! 余計なことを。。。」

 

300,001円

 

天の声「私としても、なるべく高く評価してあげたいが、査定のポイントがなんとも少ない」

私「いやいや、掃除当番もありますし。。。」

天の声「そぅ? あの、四角い部屋をまるく掃くっていう、アレ?」

私「「まるい部屋を四角く掃いても、結果は同じ」とも言いまして」

天の声「言わん!」

 

私「はぁ、これからはもっと熱心に取り組みますんで、付加価値を認めていただいて」

天の声「ん~、大した付加価値じゃないと思うけどね。ま、いいや。じゃ、5万ってことで」

私「え~っ! 30万は出してもらわんと、、、、犬には負けられん」

天の声「つまらん、プライドだな」

私「今後の成長も見込まれますし」

天の声「ん? 君が?」

私「はぁ、見張り強化のために、拳法も習おうかと」

天の声「あ、余計なことはせんでいい。ケガをされた日にゃ、そっちの方が高くつく」

 

私「ならば、もう一声」

天の声「あ~面倒くさいな、じゃ、30万で」

私「いやいや、犬と同額じゃ、家族が泣きますんで。もう一声」

天の声「あ~面倒くさいな。じゃ、30万1円(300,001円)でいいや」

 

私「なんともケチくさい人だね」

天の声「ん? なんか、言った?」

 

耐用年数やいかに

 

私「じゃ、それで手を打ちますんで、お手当の方も一つよろしく」

天の声「ん? 給料? ムリ」

私「え? ただ働きっすか?」

天の声「そりゃ、そうだろう、こっちは固定資産税も払わにゃならんのだ」

私「でも、犬も餌はもらいますぜ」

天の声「エサ !? 君にはプライドといったものはないんかね?」

私「はぁ、そんなもんは幼稚園に捨ててきました」

 

天の声「なんのこっちゃ、こちらは毎年の減価償却もせにゃならんのだ」

私「だから、「器具及び備品」やいやなんだ」

 

天の声「おぉ、そうだった、耐用年数を決めなきゃいかん」

私「犬が8年なんで、控えめに言っても最低10年は。。」

天の声「え、10年? 君が? その歳で?」

私「はぁ、平均余命もまだまだあるし」

天の声「高齢者は人それぞれだから、平均余命は参考にできんのよ」

 

私「年齢差別は、よくないっす。そもそも会計士が許さない」

天の声「そぅ? 会計士は、外形でなく、実態をみると言うぞ」

私「チッ。。。」

 

 

天の声「ま、いいや、そこは、自宅で奥さんとよく相談してみてくれ」

私「え~っ!? そ、それは、、、、こまる」

天の声「なんで?」

私「はぁ。。。妻は、忖度(そんたく)というものを知らないんで。。。」

天の声「・・・」

****

 

やっぱり「器具及び備品」はイヤだ。

犬たちも、さぞや、そう思っていることだろう。

 

(イラスト:鵜殿かりほ)