豆腐の角に頭をぶつけてばかりもいられない
2026.02.02人には、それぞれ記憶を呼び起こす品がある。
私には、その一つが豆腐である。
赤だしの味噌汁に目がない。
それだけに、海外に赴任し、簡単に豆腐が手に入らなくなったときは残念だった。
「ハウスほんとうふ」の衝撃
海外でも大都市ならば、日本食や中華料理の材料店で豆腐を手に入れることができただろう。
しかし、留学先はロンドンから遠く離れた英国の田舎町だった。
1981年のことである。
日本ではすでに「ハウスほんとうふ」が販売されており、留学先に送ってもらった。
手作り用の大豆の粉と凝固剤をセットにしたパッケージ商品だ。
粉を水に溶かし、かき混ぜて加熱。沸騰したら、弱火にして3分程さらにかき混ぜる。
その後、手早く凝固剤を混ぜて、保存容器に移す。
待つこと30分。次第に固まってくるので、室温まで冷めたら冷蔵庫へ。
以上で完成である。
海外の田舎町で、これほど簡単に豆腐が作れることに、ただただ感動した。
当時の海外在住者の中には、同じ思いをした人がいるのではないか。
今では、「ほんとうふ」は製造中止とのこと。
誠に残念である。
紙パックの絹ごし豆腐
3年後、今度はニューヨークに赴任した。
仕事は為替市場の担当で、日々、円相場の動向をモニターしていた(当時の勤務先は日本銀行)。
とくに1985年9月のプラザ合意以降は、忙しさが加速した。
本部の指示に従い為替介入を手伝うようになってからは、片時も目が離せなくなった。
こうなると、日中、席を外すことができない。
昼食も、ケータリング頼みで、画面を見ながら机の上で食べる。
そんなある日、ケータリングのメニューに、「冷ややっこ弁当」を見つけた。
おぉ、なんとも食欲をそそるではないか。。。
早速、注文する。
届いたのは、なんと、豆腐の入った紙パックと魚の形をした醤油差し、それにご飯とお新香の組み合わせ(ほかに唐揚げがついていたかもしれない)。
味は悪くなかった。
それにしても、、、である。
場所は、憧れのニューヨークだ。
日本の親族や東京の同僚は、フレンチレストランで、現地の人と颯爽とランチを食べている私を想像していたことだろう。
当の私といえば、オフィスの机の上で、紙パックをハサミで開封し、振っても振っても出てこない豆腐と格闘しているのだった。

(イラスト:鵜殿かりほ)
