金融経済イニシアティブ

明治の人はエラかった ~暦を改める話

2025.01.06

正月風景は、子どもの頃とは大違いだ。

 

60年前のわが家では、元旦は玄関口に日の丸を掲げ、お屠蘇と雑煮とおせち料理で明けた。

 

おせち料理を終えると、待望のお年玉だ。

父親がポチ袋(当時そんな名称は聞かなかった)を一人ひとりに配る。

私は、兄がいくらもらったかを覗き込みながら、後生大事にしまい込んだものだ。

 

1月4日、さっそくお年玉を手に近所の銀行に出かけた。

今から思えば、預金に代えて、好きなお菓子やおもちゃを買っておけばよかったが、あとの祭りである。

 

キャッシュレス時代

それが、いまやキャッシュレス全盛である。

お年玉をキャッシュレスで欲しいという子どももいるという。

 

親「じゃ、そろそろお年玉を配るかな」

子「よっ、待ってました!」

親「じゃ、一人ずつ並んで」

子「『並んで』って、もしかして現金? それじゃ、おもちゃ屋さんから嫌われちゃうよ。。。」

親「ん?どぅいうこと?」

子「お店もキャッシュレスが便利だからね」

親「ふ~~ん、でも、どうやって渡せばいいんだ?」

 

子「簡単だよ、ちょっと待ってね。いま、ぼくのQRコードを見せるから」

親「はぁ?」

子「はい、このQRコードをスマホで読み取って。あとは、金額を入力するだけ」

親「ん?それだけ?」

子「うん、これでいきましょう」

 

親「読み取って、入力して、ボタンを押して、と」

子「そぅそぅ、、、お、来た来た。。。なぁんだ、少ねぇなぁ」

親「ん?なにか?」

子「あ、いえ、いえ、どうも」

 

なんとも味気のないお年玉である。

 

太陽暦から陰暦へ

それにしても、昔の人はエラかった。

 

日本は、古来、陰暦を採用していた。

これを明治6年(1873年)に、太陽暦に改めた。

「近代化のため」が理由だった。

 

太陽暦への移行は、前年の明治5年11月に決まったという。

しかし、太陽歴の1月1日は陰暦の前年12月3日に当たる。

つまり、実際の準備期間はひと月あるかないかだったようだ。

 

いまならば、カレンダー業界が大規模デモを仕掛けるところだろう。

それでも、近代化の名のもとに、社会慣行を一変させてしまうのが明治の時代だった。

 

いま、同じことをすれば、どうなるか。

 

明後日は正月ではない!

上司「あれ?、山本君、明日は休みじゃないよ」

私「え??課長、お忙しくて混乱してるかもしれませんが、明日は大晦日のbank holiday、明後日は正月ですよ」

上司「いやいや。。。あ、そうか、君は海外から帰ってきたばかりだから、分かってないんだな。来年から暦が変わるんだ」

私「は???」

 

上司「太陽暦から陰暦に変わるんだよ。だから、明後日は正月じゃない」

私「でも、明日から里帰りを予定してるんですけど」

上司「だからさ、年末年始じゃないんだよ、明日、明後日は仕事」

 

私「はぁ?じゃ、いつが正月に?」

上司「来年の正月1日は、今のカレンダーでいうと1月29日になるな」

 

私「じゃ、旧正月が正月に?」

上司「そう。だから、旧正月が正月で、今の正月が旧正月になる」

私「ややっこしいっすねぇ」

上司「そぅだ」

 

私「じゃ、明後日はいったい何日に?」

上司「うん、新しい年の12月4日となる」

私「え?12月を繰り返すんっすか?1月を繰り返してもよさそうな気が。。。」

 

上司「うん、そういう意見もあったらしいけどね。そうすると、子どもたちにお年玉を2度配らなきゃいかんだろ。で、こうなった」

私「なるほど。。。でも、12月を繰り返せば、クリスマスプレゼントを2度渡すことになりそうですが。。」

上司「そこよ、国会審議のときに、どうもそこが見落とされたらしい」

私「はぁ・・・」

 

慣れの問題なのか?

 

私「じゃ、わが経理部門はどうなるんすかね?、まさか12月4日から31日までの28日間の決算を行わなければならない、とか」

上司「さすがに28日決算はないと思うけどね、、、ただ、13か月決算にすると陰暦と太陽暦が混在しちゃう。揉めてて、まだ審議中らしい」

私「こんな大ごと、もっと早く決めてもらわないと。。。」

上司「でも、明治の頃もこんなもんだったらしいよ」

私「時代がちがいます」

上司「そぅだけど、言い出せばきりがないんでな。エィヤーでやるのもいいのかも」

 

私「でも、今さら、なぜ陰暦に?」

上司「うん、明治の時代は『近代化』は西洋化を意味したが、今は『アジアの時代』ということらしい」

 

私「しかし、和暦から西歴への単純な読み替えとは違いますからねぇ。対応する日付が全く違う。西暦2025年2月1日が、、、え〜と、、、和暦の、、1月4日、、かな?」

上司「うん、そこは、システムが勝手に読み替えてくれる」

私「いやいや、私はコンピューターじゃないんで、生きて行けない」

上司「あ、そ、若い人たちは慣れの問題だからなんとかなるって言ってるぞ」

私「うぐぐぐ」

 

上司「そんなことより、早く里帰りの切符を買い直した方がいいんじゃないか」

私「あ、そうでした」

 

~~~~

 

私「たいへんです」

上司「どした?」

私「駅に行ったんですが。。。」

上司「どうなった?」

私「それが、、、全く予約がとれませんで」

上司「ん?なぜ?」

私「アジアの人が正月祝いの大移動とやらで、大量に日本に押し寄せてくるとか」

上司「そぅか、旧正月だからなぁ」

 

(イラスト 鵜殿かりほ)